本研究は、令和4年度までの研究により、第1に、意匠権保護対象である応用美術ないしデザインに無制約に著作権保護を承認することは、本来の意匠権保護範囲を超過して著作権保護範囲を与えることになるので、応用美術の著作権保護の承認には一定の制約が必要と解されるべきであること、そして、第2に、その制約の手法の解釈論として妥当し得る分離可能性基準は、当初の実用的美的機能排除論(知財高判ファッションショー事件)から、物的機能排除論(知財高判タコの滑り台事件)を経て、応用美術の美的機能の物的機能に対する優劣を相対的に評価する相対的美的機能評価論へと発展し、この相対的美的機能評価論が応用美術の著作権保護の制約的承認に関する解釈論として妥当と解されることが明らかにされた。 以上の研究成果を基礎としつつ令和5年度は、美的機能の相対的評価の基準について裁判例研究を通じ同基準論の理論的妥当性の検証を進め、その成果として、(一社)発明推進協会主催の判例研究会において、量産布団デザインの著作権保護の否定に関する大阪高判布団絵柄事件の解釈論も美的機能の相対評価論により整理可能である旨を口頭報告し、その成果を同協会発行の学術雑誌に公表した。加えて本研究課題との関連において、応用美術である自動車デザインの著作権侵害の成否を争点としたドイツ最高裁判例ポルシェ911事件を考察し、応用美術の著作権保護に関する解釈論のドイツ比較法的展開を分析し、その成果を東京大学著作権法等奨学研究会において報告した。また、意匠権保護との重複関係も生じ得る建築デザインの著作権保護のあり方に関しても研究を展開させ、建築著作物に関する妥当な保護基準を、応用美術の著作権保護の解釈論とは内容的に異なるものとして理論構成し、その成果を『多様化する知的財産権訴訟の未来へ〔清水節先生古稀記念論文集〕』に公表することができた。
|