研究課題/領域番号 |
18K01392
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
森 勇 中央大学, 日本比較法研究所, 客員研究員 (30166350)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドイツ基本法 / 守秘義務 / アウトソーシンク / デーゼル・スキャンダル / 差押え禁止 / 情報の自己決定権 / 弁護資料 |
研究実績の概要 |
2021年度は、ドイツ連邦憲法裁判所の判例をふまえて弁護士の職業実践に関わる二つのテーマと取り組んだ。守秘義務と弁護士事務所の家宅捜索と企業等の「内部調査」資料の押収である。 前者の弁護士の守秘の権利と義務は法治国家のバックボーンであり、憲法の保護を受ける。連邦弁護士法と連邦弁護士会規約委員会の弁護士職業規則により定められているが、その規律は、守秘の権利と表裏をなす守秘の義務をいわば鉄壁の城塞に仕立てている。また近時の連邦弁護士法と職業規則の改正は、時代の流れとなっているIT化そして付随業務のアウト・ソーシンクへの対応を加えて、その城壁をかさ上げしている。立法のモデルとなる実に巧みな法制である。 後者は企業不祥事の捜査過程における家宅捜索と内部調査資料の押収に関する連邦憲法裁判所の三つの決定をベースに、内部調査と弁護士の職業実践との「絡み合い」を考察するものである。また、上記の決定の一つは、弁護士自身の憲法上の権利の侵害ではなく、内部調査の依頼者の憲法上の権利である「情報の自己決定権」が主張されたケースであり、弁護士の職業実践と基本権との関わりの裾野の広さを教えてくれる。さらに、ドイツの内部調査のあり方に関する議論も、わが国での問題の検討に重要な視点を提供している。 なおこのほか、司法書士の制度等についてのドイツ語論考を発表する機会をえて、日独の違いの一端を示した。 研究者は、ドイツの研究者と実務家のインタビューと彼らとの討論を通じて、ドイツで弁護士職業法についての議論の背後にある生の環境を把握し研究のバックボーンとしてきたが、それは行えなかった。ただし、いずれもオンラインであるが、ドイツ弁護士大会、 ベルリン大学の「リーガルテック」に関するシンポジウム、そして、ケルン大学の「連邦弁護士法の今後の改革」に関するシンポジウムに参加し、弁護士職業法の動向についての情報を多くえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
従前収集してきたドイツ憲法裁判所等の最上級裁判所の弁護士職業法に関する裁判例は質量とも膨大であり、加えてまた、「研究実績の概要」で述べたとおり、弁護士自身のみならず依頼者の基本権もまた弁護士の職業実践に関わりを持つことから、研究者が取り上げるべき裁判例はさらに増えることも予想される。各年度ごと研究者の関心が深いテーマに関連した裁判例を取り上げ、そのもとでのドイツ弁護士職業法の状況を把握・研究し、これに関する論考をそれなりに発表していると自身評価はしているものの、研究期間内に弁護士職業法関連裁判例として抽出したものすべてを渉猟することは、一人の研究者にとっては物理的に無理があり、当初計画したとおりの進捗とはなっていないことから「遅れている」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
従前と同様、研究者が関心を持つ弁護士職業法上の個別問題との取り組みを継続していく。ただ、研究者の手法は、ドイツ一次文献を踏まえ、その上でフィールドワークにより問題の核心に迫ろうとするものである。しかし、ここ2年以上にわたる新型コロナの流行によりその実施が妨げられた。さらには欧州における混乱・不安定要因に鑑みるなら、本年度(2022年度)においても、渡独は現在のところ研究者にとり現実的ではない。また、ドイツの専門家を招聘することも同様である。研究者としては、このような障害が除去され次第渡独し、予定していたインタビューなどを実施し、可能であればドイツの専門家を招請し、従前の研究成果を踏まえて、課題の「弁護士法と憲法秩序」についてセミナーを開催したいと考えている。 なお、本年度研究対象として予定しているテーマは、弁護士の基本的義務である「ことに即して行動すべし」をとおしてみた、ドイツにおける「弁護士の表現の自由とその限界」である。「言葉による闘争」の戦士である弁護士に許される批判の限界を問うものである。さらに続けては、2021年における連邦弁護士法改正を、その憲法的背景を映し出すかたちで追ってみることする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究者の支出計画では、資金の多くは研究者の海外活動と国外研究者を招聘してのセミナーやシンポジウムの費用にあてられる予定となっているが、これらは先に述べたように新型コロナそしてまた東ヨーロッパにおける戦乱によりもたらされた、国際的な往来が不可能ないしは極めて困難な状況化においては、実行できていないことが予算の大幅な未消化の原因となった。日独間の往来が研究者の個人的環境に照らしても何ら問題のない状態がもたらされ次第、まずは研究者が渡独して計画していたフィールドワークを実施し、また可能であれば予定しているドイツ研究者ないしは実務家を招聘してのセミナー等を開催して支出計画を達成したい。
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