知的財産権侵害に対する損害賠償額の算定について、前年度に引き続き、著作権法を中心に検討した。とりわけ、海賊版サイトにおいて著作物が閲覧に供されたケース(ユーザーによる意図的なダウンロードを伴わないケース)において、著作権法114条1項の「受信複製物」の数量をどのように認定すべきかという点や、著作物が著作権者が通常許諾している利用態様とは異なる態様で利用された場合の損害額の算定手法について検討した。これらの検討成果は、近刊の『条解 著作権法』(弘文堂)の同条に関する記述に一部反映されているほか、現在執筆中の住宅地図の利用が問題となった事件の判例評釈にも一部反映される予定である。 研究期間全体を通じて得られた知見としては、①特許法をはじめとする創作法と商標法をはじめとする標識法とでは制度趣旨が大きく異なるものであること、②知的財産権の損害額の証明が困難であるという前提の下、権利者の証明の負担軽減を図る必要性という点は、各知的財産法で共通しているが、これらの法で損害額の算定方法まで同様の規定が置かれている理由については、そのような共通性から必然的に導き出されるものとは言い難く、それぞれの法の趣旨から説明することも困難であること、及び③共通の算定方法が法定されていることの理由については、算定の大まかな枠組みが3通り示され、更にその算定の枠組みが各知的財産法で同様なものとなっていることによる当事者や裁判所の算定のコストの軽減というところに求められること、④具体的な算定方法については、問題となる知的財産権の性質を踏まえる必要があること等である。これらの成果については、研究期間を通じて論文等として既に発表してきており、今後も上記の著作権関係の上記の業績を公表する予定があるほか、現在執筆中の標識法の概説書の損害賠償に関する部分にも反映させる予定である。
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