研究課題/領域番号 |
18K01402
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
長谷川 義仁 近畿大学, 法学部, 教授 (50367934)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 胎児 / 権利主体 / 出生前(胎児)治療 |
研究実績の概要 |
本研究では,胎児治療を母胎内で受けた胎児に私法上の権利主体性が認められるべきかを米国法及び英国法との比較法研究によって明らかにする。日本法において「人」の私法上の権利主体性は,原則として出生(母体からの全部露出)により肯定される。胎児治療には,母胎内で行われる方法と母体外で行われた後に母胎内に戻される方法とがあるが,後者の場合,胎児であっても治療時に母体から一旦は全部露出したこととなり,胎児とはいえ権利主体性が肯定される余地が生じ,仮にこうした胎児に権利主体性を肯定するなら,前者の胎児との間で不公平が生じるおそれがある。 そこで,本研究は,実際に胎児治療が行われた国との比較で,法がどのような手当てをすべきかを検討することにした。2018年度には,胎児治療が母体外で行われた後に母胎内に戻された案件を有する米国の状況について,立法,裁判資料及び法文献を収集したほか,胎児治療の実施状況についてフィラデルフィア小児病院を例に検討した。米国では,胎児治療との関係では法の手当ては特段なされていないことが明らかとなったが,胎児の権利主体性については,人工妊娠中絶の可否に関する研究で考察されてきたことが明らかとなった。また,2019年度には,胎児治療が母胎内で行われた案件を有する英国の状況について,資料,裁判資料及び法文献を収集・検討した。英国では,パブリックポリシーとの関連で胎児の人権に関する主体性についての研究が蓄積されてきたことが明らかとなった。また,英国の当該案件では,NHSに胎児治療を拒否された妊婦がベルギーで治療を受けた後に英国に帰国して出産したものであるため,EU内の状況も調査したところ,オランダなどのEU内で胎児の私法上の権利主体性についての議論が生じていることが明らかとなった。そこで,マックスプランク研究所の研究者と意見交換をして資料調査及び研究の方針について助言を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度には胎児が胎児治療を母体外で受けた後に母胎内に戻された案件を有する米国の状況について,また,2019年度には,胎児が胎児治療を母胎内にて受けた案件を有する英国の状況について検討した。しかし,研究計画の時点では予想できなかったが,米国および英国では,胎児に直接的に外科手術を実施する案件は最近になってはじめて現れたことから,胎児治療に関する訴訟案件は生じておらず,胎児の権利主体性について胎児治療との関係で論じられた法資料は見当たらなかった。もっとも,胎児の権利主体性については,米国での調査によって,刑法上の人工妊娠中絶の可否に関する議論および女性の中絶権の許容範囲についての議論の中で研究が蓄積されてきたことが明らかとなり,また,英国での調査によって,中絶の問題とは別に,パブリックポリシーとの関係で人権の主体としての議論が蓄積されてきたことが明らかとなり,さらに,近時,オランダなどのEU内で胎児治療とは関係なく私法上の議論が生じていることが明らかとなった。そのため,本研究の対象範囲は,人工妊娠中絶に関する胎児の権利主体性の認否やパブリックポリシーとの関係での胎児の人権の主体性の認否など,当初の研究計画の対象範囲を大幅に超越することとなり,当初の研究計画よりも調査・検討対象が増加したため,現在のところ,研究は当初の計画よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度には,過年度までの米国・英国・E U諸国の調査・検討を前提に日本法への示唆を得て,胎児の私法上の権利主体性を肯定しうる一般的なフレームワーク構築のために,なぜ今日において胎児の権利主体性を再検討する必要があるのかを明確にし,一定の場合にのみ胎児の権利主体性を肯定する従来の日本法のフレームワークの問題点を明らかにする論説を2021年までに公表したい。 なお,本研究の対象範囲は,人工妊娠中絶に関する胎児の権利主体性の認否やパブリックポリシーとの関係での胎児の人権の主体性の認否など,当初の研究計画の対象範囲を大幅に超越することとなったが,私法一般における胎児の権利主体性の問題は重要な論点となっているのが世界的趨勢と考えるので,本研究では,胎児治療が行われた場合に胎児が治療を受ける権利の主体となりうるのかの問題に研究対象を限定し,胎児の人権法上,刑法上,及び私法上の権利主体性に関する統合的研究のための基礎的研究としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に必要な外国文献として図書を近畿大学生協に発注したところ,日本では入手不可能との回答であった。そのため,当該書籍を入手できなかったため,今年度は予算を全額使用することができず,1266円の次年度使用額が生じた。
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