研究課題/領域番号 |
18K01403
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研究機関 | 広島経済大学 |
研究代表者 |
宮畑 加奈子 広島経済大学, 教養教育部, 教授 (20441503)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 台湾 / 多元文化 / 権威主義 |
研究実績の概要 |
考察を重ねてきた多元文化について、アジア法学会の報告テーマ(2019)を基に論文を執筆し学会誌に掲載した。植民地期台湾においては、文明に対置または等置される概念としての「慣習」が、日本と隔絶した異法域として存続することを決定づけ、慣習をめぐる種々の解釈と制約が、戦後において読み替えられた「文化」概念との間で緊張関係を温存した可能性に加え、論文では以下の点を指摘した。①ドイツ国内の慣習法論が国際法理論の形成に影響を与えたように、日本統治下の各地域間において、準国際私法としての役割を担った共通法の施行により、台湾の慣習の一部が極小化された「本国法」としての役割を担っており、そこにはまた「文明国」標準を満たすことを至上命題とされた台湾における「慣習」の位置付けが投影されていたこと、また②日本統治期に顕著であった司法と行政の一体化は、戦後の国民党政権によって持ち込まれた「司法の党化」に接続され、国民党による「中華の回復」に対しては、日本時代を通じて温存された慣習や歴史を媒介とした「文化」を国民党政府への抵抗手段とすることにより、「多元文化」の文言を借りながら、時空を超えて現在の文化概念につながっていることなどがその内容である。 さらに研究ノート「新型コロナウイルス感染症の予防、治療及び救助、振興特別条例」(条文仮訳)により、公衆衛生の分野に今も残存する権威主義的な法の効力と民主化の過程で定着した市民生活への配慮とが混在する点を示し、文化とは異なる公共領域の一側面について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウイルス感染症による外出自粛、有形文化資産の保存・活用と地域振興との相関性についての再考、現地視察の延期等の複数の要因が重なり、本課題の総括が頓挫した状況となったため。
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今後の研究の推進方策 |
本課題のテーマである有形文化資産を活用した地域振興とイノベーションに関する考察には未だ到達しておらず、延長後の課題として残されている。次年度は、コロナウイルス感染症の蔓延とともに停滞したままの観光事業への考察を基礎としながら、有形文化資産の保存・活用と地域振興の相関性および地球規模の社会的変容を経た新たな可能性について再考する。具体的な事例研究として、広島の陸軍被服支廠の保存・解体をめぐる論争を取り上げ、台湾の事例(三井物産倉庫の事例など)を参照しながら分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の世界的流行を原因として渡航制限と外出自粛とが課されたことにより、予定された研究成果の総括や対外的な発信手段としての動画作成にまで至っていないため、本年度の残額を延長年度研究計画を実施する際の参考書籍代として計上した。
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