研究課題/領域番号 |
18K01404
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
遠矢 和希 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 主任研究員 (20584527)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 研究倫理 / 医事法 / 医療情報 / バイオバンク / 周産期 |
研究実績の概要 |
本研究は、臍帯血・胎盤等の周産期・新生児由来試料と医療情報を収集・集積する研究用バイオバンクにおける倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:以下ELSI)を検討し、当該バイオバンクの長期的な運営と医科学研究基盤整備に資する法政策的提言を行うことを目的としている。初年度の実績として、文献調査を行うとともに、以下の調査結果を公表した。 ① 国立循環器病研究センター(以下:国循)における調査:研究代表者の前所属機関における調査であり、代理同意について対応に難渋したとされる事例を分析することにより、周産期試料バンキングに関する同意の実際的な問題点を明らかにした。同時に代理同意時の母親の妊娠週数など統計的なデータをまとめ、日本国内の一施設の状況を示した。個人情報の取扱いに関する対策の詳細はバイオバンク資料を用いる研究計画書に記載し、国立循環器病研究センター研究倫理委員会の審査・承認(研究課題番号M28-083)を受けて行った。 ② 先行する国外施設の周産期試料バイオバンクの運営体制と法制度の調査:研究代表者は2015年にNorwegian Mother and Child Cohort Study(以下MoBa、オスロ市内・ノルウェー)を視察したが、3年を経てMoBa発足当初の参加児は成人(18歳)に達している。ドナーの追跡に大きな役割を果たしている国民番号制度を含むノルウェーの法制度を踏まえ、児のコンセントの機会保障がどの様に行われる予定か、現地調査のデータ及びMoBaの研究者による論文等を検討した。 加えて、本研究に関連する実績として、国循における研究倫理コンサルテーション・サービスについての総括及び研究倫理教育の実践が挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度中の平成30年10月に、研究代表者の所属機関の変更があったため、関係する業務および手続きにエフォートと時間を費やしたものの、おおむね計画通りに運んでいる。前述の「研究実績の概要」における、国循とMoBaに関する調査結果の公表は、本研究計画の嚆矢となるものである。 二年目以降は文献調査とともに、国内外の周産期試料バイオバンクにおける実情を調査検討することとしているが、国循以外の国内他施設における周産期試料バンキングに関する運営体制の調査についての準備が進んでいないことから区分を(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で明らかにする計画である「バイオバンクの長期的な運営(試料・情報集積と当該試料を用いる研究)」のELSIに関して、試料・情報の「有償譲渡」にまつわる課題がある。現在、国循および現所属機関の国立がん研究センターバイオバンクの方針として、企業を含む他施設・研究者への試料・情報の有償譲渡が計画されているが、そもそもヒト試料を金銭を介して受け渡しする場合のELSIについて議論が尽くされていない。バイオバンクの長期的な運営には経済面での基盤が欠かせないものの、「有償」が利益を前提とするのか「手数料としての設定」となるのか、手数料の計算方法はどうあるべきか、またバイオバンク参加者の尊厳と権利、無償で寄せられた「試料・情報の有償譲渡」が国立研究開発法人として法的に可能なのか等、多面的なELSIの検討が早急に必要と考えられる。 本研究に直接関係のない実績として、初年度に生命倫理学の法的観点による調査法についてまとめたが、国立研究開発法人(また国立大学法人)等を母体とする長期的バイオバンクの試料・情報の「有償譲渡」の法的枠組みを考える上で、今後信託法も含め検討の一助とする。 また譲渡される「情報」について、現在の医学系指針において個人情報の取り扱いは安全管理措置としての側面を持つが、無体物であり増加・変化する医療情報等を「保護」しつつ「利用する」為には、指針の安全管理措置という枠組みでは限界があると考えられる。医学・疫学研究においては疾患別のレジストリ構築など国際化・ネットワーク化が進んでいる。医科学研究には守秘義務を負う医療者以外も関わる可能性があり、「センシティブかつ有形無形の利益を生む(可能性がある)情報」という情報倫理に関わる大きなコンセプトを視野に入れつつ、法政策的な対応を検討しなければならないと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年10月に研究代表者の所属機関の変更があったため、関係する手続きに時間を費やした。現所属機関への研究費の振込等が想定よりかなり遅れたため、年度内に予定していた経費を使うことができず、次年度使用が生じた。翌年度以降の研究促進のために用いる。
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