研究課題/領域番号 |
18K01404
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
遠矢 和希 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 主任研究員 (20584527)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 研究倫理 / 医事法 / 医療情報 / バイオバンク / 人試料 |
研究実績の概要 |
本研究では引き続き文献調査により「公的機関運営の研究用バイオバンク(以下「BB」)が有償で企業等に試料を分譲・提供する場合の法的・倫理的基盤の検討」を行った。 研究用BBにおいて、近年、有償で試料・情報を外部へ分譲しようという動きが強まっている。本研究における「人試料は売買の対象にならない」という前提の確認および、日本におけるバイオバンクの法的基盤の考察等に繋がるため、「有償」での外部提供について検討した。試料提供者、BB、企業等のヒト試料譲渡に係る三者の法的関係について譲渡契約、準委任契約、目的信託に加えて公益信託等のBB契約関係への応用に関する検討をそれぞれに行い、結果として、公益信託の応用が法的枠組みとして最も理想的であると結論付けた(雑誌論文3件目)。更に、BBは試料・情報提供者とユーザー・研究者を介し、試料・情報を預かる、管理するという役割であることを踏まえ、米国衛生研究所(NIH)の国立がん研究所の文書ではBBを「信頼された仲介者かつ管理・世話者」とし、「既存の倫理・制度の要求の範囲内で活動すること、利益相反を生じないよう研究者・使用者とは独立して振る舞う存在である」カストディアンと呼ぶ。2000年以降、こうしたBBの独立した役割や責任について「責任あるカストディアンシップ」が求められるようになっている。カストディアンシップの理念は「提供先による利活用の適切性を確認する監査等」を可能とすることから、人試料の外部提供における問題点を解決する可能性を指摘した(雑誌論文2件目)。 この他、補完代替医療のEBM検討のための臨床研究について、日本における代替医療の歴史的変遷を確認し、代替医療の規制には欧米と異なる対応が行われてきたことを指摘した。すなわち、臨床研究を先に行うEBM先行ではなく、漢方等既に人口に膾炙した施術の質を担保するための規制である(雑誌論文1件目)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
倫理・理論的な枠組みをカストディアンシップとし、法的な枠組みを改正予定の公益信託とすることで、公的機関が運営する研究用BBによる人試料の外部提供の問題点の解決への道筋が見えた。日本の研究用BBは国立大学や国立研究開発法人など、ほとんどが公的機関によって運営されている。周産期試料のBBに限らず、広くBBに関して検討した成果となった。また研究倫理関連で、日本の代替医療の臨床研究と法規制に関する歴史的検討も行った。 更に、周産期試料のBBを取り扱うにあたり、臨床研究における性別・ジェンダーの取り扱いのELSIを検討することとした。背景として、今般のコロナ禍及びワクチン接種に際し、臨床研究においてジェンダーに関する対応・検討が不足していることがいくつかの事例により露呈したことが挙げられる。臨床研究における性別・ジェンダーに関する解析の重要性を指摘する英語論文はcovid-19以降更に増加しているが、近年の国内における学術的議論はほとんどない。臨床研究の対象者リクルートに際しては(生物学的な)性別バランスが考慮されるようになっているが、データの取得及び解析における性別・ジェンダー要素の検討に問題があり、結果として女性の健康やQOLに影響が及んでいる。妊産婦の研究参加についても検討が必要である。この論点は本研究の新しい成果につながりつつある。 今年度は英語論文1編、和文論文2編、分担執筆書籍3冊などの大きな成果が得られたため、区分を(1)とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、国内外施設における周産期試料バンキングに関する運営体制の調査を行う予定であったが、コロナ禍が研究計画に影響を及ぼしている。そのため、元々予定していたバイオバンクに集積される情報についての研究に代え、周産期試料の収集および未成年者を対象とするレジストリに特異的な「家庭環境調査」等のELSIについての調査を検討中である。 LGBTsの家族形成に関する研究代表者の研究の経験から、「多数派の視点から少数派を判定すること」の科学的な意味や倫理的問題について検討するべきと考えられる。諸外国では、生育環境に関する調査における研究倫理的な問題、すなわち対象家庭での調査の過程で判明した虐待やDVへの対応、児のプライバシーの問題等が取り上げられている。また研究に関する代諾について、保護者が代諾者として適切なのかという点も検討すべきケースがあると考えられる。 また、2022年度に一定の成果を得た、臨床研究における性別・ジェンダーに関する対応のELSIについても、引き続き検討を続けることとする。 時間的・資金的な限界もあることから、上記のテーマを取り扱うこととし、本研究を遂行していくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年10月に研究代表者の所属機関の変更があり、現所属機関への研究費の振込等が想定よりかなり遅れたことで、初年度に予定の経費を使うことができなかったことが尾を引いている。加えてcovid-19流行により、所属機関においては令和2年2月初旬から国内・国外への出張が制限され、それにより出張費支出が大幅に減少したため、研究費残額が大きくなった。そのため、令和5年度の研究期間の延長申請を行うこととなった。残額は研究促進のために用いる予定である。
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