本研究最終年度として、「公的機関運営の研究用バイオバンク(以下「BB」)が有償で企業等に試料を分譲・提供する場合の法的・倫理的基盤の検討」を行った。 前年度までの成果として、本研究における「人試料は売買の対象にならない」という前提の確認および、日本におけるバイオバンクの法的基盤の考察等に繋がるため、「有償」での外部提供について検討した。試料提供者、BB、企業等のヒト試料譲渡に係る三者の法的関係について譲渡契約、準委任契約、目的信託に加えて公益信託等のBB契約関係への応用に関する検討をそれぞれに行い、結果として、公益信託の応用が法的枠組みとして最も理想的であると結論付けた。更に、BBは試料・情報提供者とユーザー・研究者を介し、試料・情報を預かる、管理するという役割であることを踏まえ、米国衛生研究所(NIH)の国立がん研究所の文書ではBBを「信頼された仲介者かつ管理・世話者」とし、「既存の倫理・制度の要求の範囲内で活動すること、利益相反を生じないよう研究者・使用者とは独立して振る舞う存在である」カストディアンと呼ぶ。2000年以降、こうしたBBの独立した役割や責任について「責任あるカストディアンシップ」が求められるようになっている。カストディアンシップの理念は「提供先による利活用の適切性を確認する監査等」を可能とすることから、人試料の外部提供における問題点を解決する可能性を指摘した。 これに加えた成果として、今年度は臨床研究対象者の両性のバランスをとることや、性別/ジェンダーに基づく有意義な分析の必要性について、COVID-19に関する臨床研究を例として論じた(雑誌論文1件目)。各国の対応や先行研究等を検討し、性別/ジェンダーを考慮した臨床研究を推進するのに必要な方策を提言した。
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