日本における新幹線開業に伴う並行在来線の経営分離問題について、国内各地の事例を調査した上で、先進諸国の高速鉄道(AVEやTGVなど)と平行する在来線の関係を比較研究してきた。最終年度(2023年度)は、3月にスペイン、フランス、台湾を訪れ、地方政府や交通政策担当行政機関、鉄道事業者に聞き取り調査を実施した。スペインでは、カスティーリャ・ラマンチャ州クエンカ市政府観光部、バレンシア州ウティエル市長、アンダルシア州サンタフェ市政府観光部局に、フランスでは、オクシタニー地域圏のフランス国鉄(SNCF)南西部整備部局(トゥールーズ市)、ヌーベル・アキテーヌ地域圏交通整備部局(ボルドー市)、オーベルーニュ・ローヌ・アルプ地域圏交通整備部局兼リヨン都市圏交通整備部局(リヨン市)に聞き取り調査を実施した。中華民国(台湾)では、台北の中華民国政府交通部運輸研究所にて、交通部運輸研究所、交通部鉄道局および国営台湾鉄路有限公司それぞれの幹部と座談会を行った。 今回調査した諸国では、国策として公共交通網を整備し国民の交通権を保障するという目的に沿って鉄道が維持されていた。国営鉄道事業を民営化・自由化したとしても、上下分離方式の採用によって鉄道路線は公有であるし、自由競争の結果として不採算を理由に鉄道路線が完全に廃止されたり、財政規模が小さい地方政府に赤字路線を移管するような事例はなかった。スペインやフランスでは、在来線の高速鉄道化にも積極的で、高速鉄道化が困難な一部の旧線が廃止され、市街地から離れた場所に高速鉄道が建設される事例(クエンカなど)もあったが、これも単なる不採算路線の「切り捨て」というわけではなく、地方政府レベルにおける公共交通政策の権限が日本の地方自治体より概して強く、住民福祉の一環として丁寧な合意形成が行われていることを、今回の聞き取り調査で具体的に知ることができた。
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