研究課題/領域番号 |
18K01412
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
竹中 浩 奈良大学, 社会学部, 教授 (00171661)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 北東アジア / ロシア帝国 / ブリヤート / シベリア地域主義 / チベット仏教 |
研究実績の概要 |
2021年度はロシア帝国内に住むモンゴル系の民族ブリヤートの同化政策についての研究に集中し、ブリヤートの同化と正教宣教団の活動に関する研究を論文としてまとめた。 帝政期のロシアは、中国やイギリスと競合する北東アジアの国際関係を有利に展開させるためにも、自らと中国の間にあるチベット仏教圏との関係を強めようとした。とりわけ自国内に住むブリヤートを同化し、忠実な帝国臣民にすることに努めた。そのための施策や基礎にある思想の解明は、研究計画の中でとりわけ重要な位置を占める。2021年度に執筆した論文では、ブリヤート同化政策全体の基本的な構図を明らかにするために、そこで文明、人種、言語、宗教といったさまざまな要素がどのように関係しているかについて検討した。 具体的には、東シベリアのザバイカリエにおける正教宣教団の活動と、1860年代ロシアに現れた政治的・思想的傾向としてのシベリア地域主義に注目して、イルクーツク大主教としてザバイカリエにおける宣教活動に力を注いだヴェニアミンと、歴史研究によってシベリア地域主義の形成に大きな貢献をした思想家であるシチャーポフを対比しつつ分析し、それによってロシア正教の宣教活動においてチベット仏教に対する強い関心があること、またこの時代のロシア政治思想において、シベリアとアメリカの類比や、連邦制という新しい国家像への注目が見られることを明らかにした。 なお、英露の政治思想を比較するために、長くイギリスで亡命生活を送ったロシア人アナキストのクロポトキンに関する研究に着手し、小論を執筆したが、公表にはいたっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題については令和3年度で研究を完了する予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大により果たせなかった。特に旅行の自粛が求められているため、調査・報告共に大きな制約を受けることになった。それゆえ、令和3年度に研究全体をまとめることを断念し(それについては令和4年度に行うこととする)、計画において挙げた四つのテーマのうち、残っている第一のテーマ、すなわちチベット仏教を信じるモンゴル系の人々に関する研究に力を注いだ。本研究においてとりわけ重要な位置を占める部分である東シベリアの「ロシア化」とその基礎にある思想の解明を行い、課題の本体部分について研究をほぼ完了した。 残っているのは、これまで行ってきた個別の分析をより大きな研究の枠組みに結びつけ、特に、帝国統治における文化と政治の関係という大きなテーマにつないでいく作業である。北東アジアと中東欧には共通点があり、本研究において採用した視点は、中東欧地域の諸民族との関係をめぐるロシア知識人の思想的な立ち位置を考える際にも適用することができると思われる。その可能性を、ヨーロッパの国際関係に注目しながら検討し、その上で、あらためて本研究の意義を振り返ることが必要であり、それが令和4年度の主要な作業となる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は本課題についての研究の最終年度になるので、これまでの分析を踏まえ、本研究が主たる対象としてきたロシア帝国の東部辺境である北東アジア地域と、最近になってとみに関心が高まっている西部辺境及び中東欧地域を結びつける視座を確立する。 第一の方向性は国際関係との関わりを解明することである。19世紀末のロシア帝国が直接的に対抗関係にあったのはオスマン帝国とオーストリア=ハンガリー帝国であったが、イギリスとも慢性的に緊張関係にあった。オーストリア=ハンガリーの背後にあってこれを支援し、イギリスとも比較的良好な関係にあったドイツとの関係も徐々に悪化していった。その結果、ロシア帝国は、政治理念において大きく異なると考えられたフランスに接近する道を選ぶことになる。このような複雑な国際関係の中で政治体制をめぐって生じた立場の分岐を明らかにしていく。 第二の方向性は帝国内の民族問題である。広大な版図を持つロシア帝国は、著しく性格の異なった民族を内に抱え込んでいた。例えばブリヤートは、帝国の支配層から見て、文化的には明らかに異質でありながら、政治的には概して無害な人々であった。これに対してウクライナ人は、文化的には支配層と近似していながら、政治的には緊張を生じさせる可能性を持っていた。文化的な異質性は必ずしも民族間の政治的敵対をもたらさず、今私たちが思い知らされているように、文化的な近さは政治的な親和性を保証しない。このような文化と政治の複雑な関係が帝国統合に及ぼす影響について比較史的に明らかにする。 この二つの方向について、本課題の研究が開く展望を示し、研究を完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大のため、予定していた調査旅行、研究発表等がほとんどできなかった。令和4年度に事態が改善され、旅行が可能になれば、最終的な確認・発表のための旅行を行って研究を完成させる。
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