研究課題/領域番号 |
18K01420
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
根元 邦朗 武蔵大学, 経済学部, 准教授 (90647025)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 選挙制度 / 議会 |
研究実績の概要 |
本研究は,混合型選挙制度(Mixed-member Systems, MMS)に着目し,政治制度の設計者が当初企図した帰結と,実際の政治現象との間に,何故乖離が生まれるのかを解き明かすものである.より具体的に本研究は,以下の問題の解明を試みる. (1)小選挙区制ではデュヴェルジェの法則により候補者数が2となると理論的に予測されるのに対し,MMSを導入した国(日本,韓国,ニュージーランド等)において2に収斂しているわけではなく,選挙区ごと・選挙年度ごとのばらつきも激しい.これは何故か. (2) 小選挙区選出議員ほど地元志向で,比例代表選出議員ほど政党志向であると理論的に予測されるのに対し,必ずしもこのような役割分担があらゆるMMSでなされているわけではなく,例えばニュージーランドでは比例代表選出議員も選挙区選出議員とは遜色ないほどの割合で,地域利害の代弁者となっている.これは何故か. 本研究では,比例代表選出議員のlocalization(地域志向性)に着目する.選挙区にlocalizationが高い候補が多く立つと,そうした候補に個人票が集まり戦略的投票が阻害され,デュヴェルジェの法則からの乖離が強くなるだろう.例えば,localizationを促進する要因の一つとして,重複立候補制が挙げられる.この制度では,小選挙区で敗れても比例代表で当選が可能である.本研究は,比例復活議員(「ゾンビ議員」)が,次の選挙での当選を目指し,あたかも当該小選挙区の現職議員であるかのようにふるまうと予測する. 2018年度は,ニュージーランド,スコットランド,ウェールズの各選挙区に関するデータを収集し,ゾンビ議員が多く立候補した選挙区ほど,デュヴェルジェの法則からの乖離が強くなっているという知見を得た.これをヨーロッパ政治学会にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の独自性は,選挙区レベルでデュヴェルジェの法則を阻害・促進する要因として,(1)重複立候補制等,見過ごされがちであったMMS特有の各種制度や,(2)当選後の議員の行動(特に議会における発言)に着目することである. そこで,本研究では,2018年度,MMSを採用している3つの議会(ニュージーランド,スコットランド,ウェールズ)に関する包括的なデータを収集した.つまり,これら3つの議会について,ニュージーランドについては1975-2017年,スコットランドとウェールズについては1999-2016年に行われてきた全選挙に関し,全ての選挙区で立候補した全候補の得票数と重複立候補の有無について収集・整理した.これを元に行った分析においては,ゾンビ議員が多く立候補した選挙区ほど,デュヴェルジェの法則からの乖離が強くなっているという知見を得た.これをヨーロッパ政治学会にて発表した. また,localizationを計測する際に独自の指標として議会における発言を使用する.1996年に小選挙区制からMMSへと選挙制度を改革したニュージーランドについては,1987-2016年の議会内における全発言をスクレイピングした.このデータを,sentiment analysis(感情分析)の手法を用いて分析を行ったところ,(1)二大政党制により議会内の対立が非常に激しかった1996年以前では議員の発言が敵対的であったが,MMSの導入により多党制となった1996年以降,議員の発言がより中立的となっていったこと,(2)特に,連立政権や法案を可決させるために小政党の協力が必要となったため,小政党への発言がより中立的になったこと,が発見された.この発見を,アメリカ政治学会とアジア政治方法論学会で発表した.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,引き続き,データの収集・整理に努めつつ,既に学会で発表した論文について修正を加えてジャーナルへと投稿する予定である. 現在,Amy Catalinac教授(ニューヨーク大学)等,共著者・研究協力者と連携しつつ,各国議会に関して議会の会議録をスクレイピングし,データとして収集・整理しているところである.2018年度は,日本の47の都道府県議会について,収集できうる限りの議事録のスクレイピングが完了した.また,やはり都道府県議会について,1999-2017年の選挙のデータを完了した.2019年度は,これを分析可能な形に整形しなおし,分析を開始する予定である.MMSを使っている他の日本の議会,すなわち衆議院と参議院にも分析の範囲を拡張していきたい. また,2018年度は,既に収集したデータを元に,ヨーロッパ政治学会,アメリカ政治学会,アジア政治方法論学会にて発表を行った.2019年度は,これらの論文について,修正を加えてジャーナルへと投稿する予定である.投稿先のジャーナルとして,選挙関連のジャーナルであるElectoral Studies等や,議会関連のジャーナルであるLegislative Studies Quarterly等を予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に行ったデータの収集・整理にはリサーチ・アシスタントの雇用が必要であった.適当な技能を持つ大学院生を探すのに時間がかかり,雇用が遅れ,結果として人件費の支出が予定よりも若干少なくなった.2019年度もリサーチ・アシスタントを引き続き雇用し,残金を使う予定である.
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