本研究の主たる目的は、若年層の政治的意思決定に選挙権年齢の引き下げがいかなる影響を与えたのかを分析することであった。2018年度にそのための基礎的調査を行い、2019年度には意識調査などを実施した。その上で2020年度は次の2つの研究を行った。 第1は、選挙権年齢の引き下げが若年層の政治に対する志向性に与える因果効果の推定と、その報告である。17歳から21歳を対象にオンライン上で行った意識調査の結果を用いた回帰非連続分析(RDD)によって、参政権付与が政治意識に与える影響を分析し、その結果を学会や研究会などで報告した。第2は若年層の意思決定に関する実験研究である。若年層の政治への志向性だけではなく、政治的意思決定の「質」に関する研究として位置づけている。具体的には視覚的手がかり(笑顔)が政治的意思決定に与える影響が若年層においてどの程度見られるか、またその因果効果はいかなる条件で抑制されるのかを、コンジョイント実験で検証した。 研究成果の概略は次の通りである。第1に参政権の付与が政治への志向性を高めるという結果は、短期的効果および長期的効果のいずれの観点から見ても得られなかった。長期的効果(2016年参院選時)が認められないという本研究の結果は、先行研究(Horiuchi et al. 2021)の知見とも符合する。さらに本研究では短期的効果も分析しているが、そこでは政治への志向性を逆に低下させてしまう可能性を示唆する結果が得られている。第2に政策に関する情報がきちんと提示されていると、政治知識に乏しい若年層であっても視覚的手がかりに依存せず、政策的情報に基づき判断することが判明した。 以上の分析結果は、いずれも若年層の政治的意思決定の解明に寄与するものである。現在、共著の学術論文としてまとめ、英語の査読付き雑誌に投稿する準備を進めている。
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