研究課題/領域番号 |
18K01432
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
空井 護 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 教授 (10242067)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 現代デモクラシー / 古典デモクラシー / 選挙中心的理解 |
研究実績の概要 |
研究初年度の2018年度においては,現代政治に関するさまざまな重要基礎概念に理論的彫琢を施しつつ,〈デモクラシー〉なる政治体制型の内部における〈現代デモクラシー〉型のデフォルト・スタイタスを論証するロジックの開発に努めた。そのさい,当初は,〈古典デモクラシー〉型に比して〈現代デモクラシー〉型が現代政治の基本構造との整合性をより多く備えている点をとらえ,このことが後者にデフォルト性を付与すると直截に論を進めればよいと想定していた。ところが,細かな検討を加えた結果,この方向での論証にはかなりアクロバティックな行論がどうしても残ってしまい,ために論証の強度が十分に上がらないという難点が発覚した。 そこで,この現代政治の基本構造との整合性を,通常想定される〈古典デモクラシー〉型に対する〈現代デモクラシー〉型の非デフォルト性を解消する――デフォルト性を付与するではなく――ものととらえ,ふたつの政治体制型のあいだに優劣関係や序列を設定できないことを,論証の出発点とすべきであるとの考えに至った。そのうえで,それぞれの型の政治体制が決定にさいして採用されるべき政策の質の違いから,通常の(ノーマルな)政策の決定について,〈現代デモクラシー〉型の政治体制の採用が必要であり,また便宜でもあることを論証するという,新たなデフォルト性論証方略の可能性を探った。カギになると思われたのは,政策の決定とともに成り立つ政策決定理由が,それぞれの型の政治体制によって大きく異なり得ることである。 2018年12月にスピーカーとして招聘された法政大学法学部政治学科政治学コロキアムにおいて,この方向での論証可能性について暫定的な検討結果を報告したのち,そこで受けた批判を踏まえながら,さらに精度を高めたロジックを2019年4月に北海道大学政治研究会で報告することを目標に据えて,当該年度終盤の研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では,3年間の研究期間の前半部分,すなわち2018年度から2019年度前半にかけての1年半は,〈デモクラシー〉型の内部における〈現代デモクラシー〉型の(〈古典デモクラシー〉型に対する)デフォルト・ステイタスを論証する作業に充てることとしており,この計画に沿って2018年度の研究は遂行された。ただし,「5. 研究実績の概要」欄にも記したとおり,当初の見込みでは,この論証は現代政治の基本構造を確定することで直ちに得られるはずであったものの,細かな検討の結果,それでは十分に安定的な論証にはならないことが判明した。このこと自体は研究上,大きな成果であったが,所詮それはいわば「負」の成果であり,「正」の成果として新たなロジックの開発が求められた。 そこで注目したのが,現代政治の中心に位置する「政策」であり,とりわけそれを重要政策と非重要政策とに分けたときの,それぞれに必要とされる政策決定理由の違いである。このことに気づくまでに約半年間を要したが,種々検討の結果,非重要政策――これが政策としてのデフォルトである――の決定における〈現代デモクラシー〉型政治体制の採用の必要性は,工夫次第で説得的に論証できるのではないかと考えるに至った。 2018年度末時点では,このロジックは完全に仕上がっているとはいえないものの,当初の予定でも,引き続き2019年度の前半をこの論証の精度を上げる作業に充てることとしていたのであり,現在までのところ,総じて本研究は「おおむね順調に進展している」と評価してよい。ただし,当初実施を予定していた専門的知識提供者からアドヴァイスを得るためのヒヤリングは,如上の見込み違いで当方の構想が容易に固まらなかったがゆえに,必ずしも計画どおりには進まなかった。この点に関しては,進捗状況は「やや遅れている」との評価を免れない。
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今後の研究の推進方策 |
今後,本研究は〈現代デモクラシー〉型の〈デモクラシー〉型内部におけるデフォルト・ステイタスをしっかり確保しつつ,〈現代デモクラシー〉型の認定基準を,「まともな選挙」要請から導かれる,論理的に一貫したものとして理解するための作業に着手する。 じつは,政策の重要度に応じて必要となる政策決定理由の違いに着目しながら,〈現代デモクラシー〉型と〈古典デモクラシー〉型の政治体制を使い分けるというのは,ロジックはそれなりに斬新であるものの,結論はとりたてて新奇なものではない。というのは,頻繁に決定を再考しない(あるいは,再考する必要のない)重要政策の決定には,レファレンダム使用を特徴とする〈古典デモクラシー〉型の政治体制を採用し,既存の政策を不断に見直し,ときにその修正を図ることが必要となるノーマルな非重要政策の決定には,選挙で選出された政策決定者に政策決定をゆだねることを特徴とする〈現代デモクラシー〉型の政治体制を用いるというのは,日本を含め,今日,多くの国々で認められるやり方だからである。その意味で,この議論のインパクトは,極端に大きいというわけではない。 これに対し,〈現代デモクラシー〉なる政治体制型を「選挙中心的election-centric」に理解し,従来,選挙からの要請とは考えられてこなかった政治的自由保障を,「まともな選挙」が要請するものととらえ直すのは,かなり目新しい試みである。よって,それに対しては数多くの疑問や批判が寄せられるはずであり,それらへの対応を抜かりなく準備するには,専門的知識提供者からのヒヤリングを積極的に行う必要がある。今後,たとえ暫定的なものであろうとも,本研究で構築するロジックや展開する議論をこまめにまとめ,それを実際に提示しつつ,研究会を通じて,あるいは個別に面会して意見やアドヴァイスを専門家から得る機会を,できるだけ多く設けることとする。
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