3年間の研究期間の最終年度にあたる2020年度においては,研究成果のとりまとめに注力し,まずはそれを社会に還元すべく『デモクラシーの整理法』(岩波書店)を12月に上梓した。 本研究の当初の目標は,①〈現代デモクラシー〉のデフォルト・ステイタスの論証,②選挙を中心とした〈現代デモクラシー〉の政治体制型としての論理的一貫性の確認,この2点にあった。しかし①については,初年度の研究の過程で,現代政治公理系をテコにそれを一挙に遂行するには多大な困難があることに気づいたため,〈現代デモクラシー〉の非デフォルト性の解消へと目標を微修正した。その結果,〈現代デモクラシー〉と〈古典デモクラシー〉の2つの政治体制型のいずれをも,選挙およびレファレンダムを中心に論理的に一貫したものとして措定する作業が必要になり,さらにそれぞれの型に属する政治体制(個体),すなわち現代民主体制と古典民主体制の使い分けのロジックの構築が求められることとなった。同書のタイトルが「現代デモクラシーの整理法」ではなく,〈現代デモクラシー〉と〈古典デモクラシー〉の両者をほぼ同列に扱う「デモクラシーの整理法」となったのは,かかる事情による。 同書では,第1章「収納――政府・政治・政治体制」で現代政治公理系を提示し,第2章「整理Ⅰ――デモクラシーの組み立て」で〈現代デモクラシー〉と〈古典デモクラシー〉のミニマムかつロバストな型の構築を行い,第3章「整理Ⅱ――民主体制の整列」で現代民主体制と古典民主体制の使い分けロジックを展開したつもりである。 同書が社会に広く受け入れられるかどうかは不明であるが,その上梓をきっかけに多くの政治学者から感想や意見をお寄せいただき,それをめぐって書簡や電子メイルやオンライン会議で議論を交わせたことは,今後,本研究の成果をさらに洗練し,学術論文などの形で学界に還元していくうえで,大変有益であった。
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