本研究は、リニア中央新幹線をめぐる政治過程について、同じく全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に事業の根拠を置く整備新幹線をめぐる政治過程との比較を通し、研究代表者がこれまでの研究で導き出した「『政治の過剰』の整備新幹線と『政治の過少』のリニア中央新幹線」という見立ての妥当性を検証し、その実態の解明を目指すものである。 研究最終年度である令和5(2023)年度は、膠着状態が続くリニア中央新幹線(静岡工区)と九州新幹線(西九州ルート)とについて、前年度までの成果を踏まえ知事権限や地元同意といった観点を深掘りするとともに、東海旅客鉄道株式会社や九州旅客鉄道株式会社のこれまでの対応を精査し、政治過程の時系列的整理の充実化を図った。 研究を通して、新幹線の政治過程における過去の取り決めや地方分権改革による知事権限の強化による国家的プロジェクトでの地方の事実上の拒否権の強固さ、工事費用の分担のあり方など先例に強く拘束される経路依存的な対応の根強さ、恩恵の多寡による沿線自治体間の思惑の違い、完全民営化されたJR各社の経営の論理に基づく行動と軋轢、対立の調整や膠着状態の打破に向けて打つ手が少ない国の政治や行政、といった諸点を浮き彫りとすることができた。 また、当初想定した「『政治の過剰』の整備新幹線と『政治の過少』のリニア中央新幹線」という作業仮説は概ね妥当するものの、リニア中央新幹線については、工事実施段階における限定的だが決定的な「地方政治の過剰」という視点を追加する必要があるとの結論に達した。 公的プロジェクトにおいて民間が関与する領域が拡大するなかで、新幹線をめぐる政治過程という事例を通してその実情、問題点やその背景を確認、深掘りすることにより得られたこれら知見は、今後の見直しに一定の示唆を与えるものと考える。
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