本年度は、主に英国のEBPMについて以下のとおり実地調査を行った。英国では分析専門職がEBPMに大きな役割を担っている。分析専門職には、エコノミスト、社会調査職、オペレーショナル・リサーチ職、統計職、保険数理職などがある。そして、これらの専門職を包括するグループとして、2018年に「分析ファンクション」が置かれた。各分析専門職を横断して、グッドプラクティスや基準を共有し、革新的な方法を開発し、インパクトのある分析を提供することが分析ファンクションの目的である また、ジョンソン政権下の2021年4月には政策評価タスクフォース(ETF)が設置された。ETFは内閣府と財務省の共同傘下にある組織であり、政策の有効性に関する頑健なエビデンスが政府の支出決定に当たって重視されるようにすることを目的としている。具体的には、各省の予算要求の根拠となっているエビデンスについて財務省歳出チームに助言すること、各省の評価の設計と実施に関して助言と支援を行うことなどを任務としている。 期間全体の成果としては、EBPMの実効性を高めるための条件について以下のことが明らかになった。第1に、エビデンスの供給側の条件として、政策分析を提供するリサーチコミュニティが存在し、政策決定者と密なネットワークを形成していることである。第2に、エビデンスの需要側の条件として、政策決定者にもEBPMの重要性や基本的な考え方が浸透していることである。英国では財務省が監修するグリーンブック(事前評価のガイドライン)、同省とETFが共同監修するマジェンタブック(事後評価のガイドライン)といったEBPMのためのガイドラインが策定されており、分析専門職だけでなく政策決定者にも理解することが求められている。第3に、供給側と需要側をつなぐ条件として、外部専門家と政策決定者を媒介する役割が必要である。英国では分析専門職がそれを果たしている。
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