本研究で明らかにしようとするのは、北朝鮮が、他の権威主義体制における崩壊や変容の事実をいかに認識し、そこからいかなる教訓を得て自らの体制永続化に役立ててきたか、である。とりわけ重視しているのは、①ソ連におけるスターリン批判と中国における林彪事件から教訓を得た「社会主義体制初の世襲」、② 中国における第2次天安門事件とルーマニアにおけるチャウシェスク大統領夫妻の殺害から教訓を得た「『先軍政治』の確立」、③リビアのカダフィ体制が核開発計画を放棄したことによって体制崩壊したとの認識に基づき、核保有を体制護持の装置に据えた「『並進路線』の提示」、の3点である。研究初年度には、いずれの論点についても徐々に検証を進めることができた。 本研究では、新たに入手した北朝鮮資料を活用することも大きな特徴である。最高指導者の著作や『労働新聞』のような従来資料と新資料の内容を突き合わせることによって、新資料を活用することの効用とともに限界も示し得る。研究初年度における新資料の精査では、新たな知見を得た部分はあるものの、その内容は従来の公開資料と論調が似通っていることも痛感した。そのため、公開資料を読み解く意義を主張できる根拠も確保しつつある。北京などで本研究課題についての意見聴取を行ったことも有用であった。 本研究課題についての論文を執筆中であるが、研究初年度においては周辺分野についてのアウトプットに留まった。
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