現在、欧州全般において人権や宗教的中立性などのリベラルな法規範の強化が進んでいる。しかし、ムスリム系移民出身者(イ スラーム諸国からの移民出身者)の排除を主張する排外主義の言説はしばしばリベラルな法規範に依拠する。本研究は、リベラ ルな法規範を根拠として彼らがどのように排除されるのか、そしてどのように抵抗しているのかを理論的実証的に明らかにする 。ムスリム系移民出身者は、「ムスリムとしての帰属意識」をもつと想定される。そして、この帰属意識を理由として市民権行 使の前提となるリベラルな法規範に従わないことを警戒され、排外主義的な法政策によって、選挙権や教育権をはじめ、市民権 の実際の行使から排除される傾向がある。具体的には欧州最多のムスリム系移民出身者が国民として定住し、排除が顕著なフラ ンスを事例として彼らの排除と抵抗の実態をア)政治参加、イ)教育、ウ)治安の各法政策分野ごとに明らかにした。 その結果、排除は治安、政治参加、教育の順番で激しくなっていることが確認できた。また、ムスリムの排除に対する抵抗は、教育、政治参加、治安の順番で組織されることが確認できた。つまり、排除が激しい場合には、抵抗してもその結果として状況の改善を望むことが困難であり、そのためにそもそも抵抗しないということである。そして、排除の決定は、政府をはじめとする行政機関による一方的な決定によってなされ、ムスリムの側が決定に介入する余地が少ないことが確認できた。
|