研究課題/領域番号 |
18K01453
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
文 京洙 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (70230026)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会的経済 / 韓国 / ガバナンス / 地域社会 / 社会的企業 / 協同組合 / まちづくり |
研究実績の概要 |
一昨年(2018年)、韓国では全国同時地方選挙が実施され、首都ソウル など17広域自治体の首長選で慶尚北道、大邱広域市、済州特別自治道を除く、14の広域自治体で市民活動に親和的な進歩派(文在寅大統領を支える与党「共に民主党」勢力)が勝利した。こうした進歩派への地域行政の転換を背景に、2019年度に調査に入った各地(忠清北道清州市、忠清南道洪城郡、大田広域市など)で社会的経済政策の積極的な転換がみられた。例えば大田市では文在寅政権の「所得主導革新成長」に対応して、社会的経済の体系的な展開を通じた地域共同体レベルの住民力量強化を目指して「社会的経済課」が設置されている。 こうした地方行政主導の包括的な社会的経済政策の推進は、2008年の「社会的企業育成法」制定以来の展開を前提に直面していた課題(行政による個別事業体の育成・支援を中心とした“点”としての取り組みからの転換、地域社会の再生・創造に向けた非営利・協同事業の包括的で系統的な取り組みという課題)に対応している。この傾向によって、各地の社会的経済の推進をめぐる広域自治体の役割が一段と強まることを意味し、調査結果も概ねそうした傾向を裏付けている。 一方でこの傾向は、NPO法人という形で展開し、設置認可そのものは容易であるが、行政による直接的な支援策に乏しい、日本の社会的経済との違いを一層際立たせることになりそうである。韓国では「社会的企業育成法」の認証制度によって人件費、事業開発費、社会保険料など手厚い財政支援を受けるが、調査地では、一定の期間を経てそうした財政支援が中断するとたちまち経営困難となり、廃業や認証取り消しに追い込まれる社会的企業が少なくないことも明らかになった。上述の「社会的経済課」などを軸とする広域自治体の包括的な社会的経済政策がいかにこうした難題を克服しうるのか、2020年度の調査ではこの点を見極めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2年目となる昨年度は、忠清北道清州市、忠清南道洪城郡、大田広域市などに加えて完州郡(全羅北道),全州市(全羅北道)の2地域についても調査を予定していたが、新たに進歩派への市長の交代のあった大田市の調査を実施したこと、加えて、昨年4月に京畿道において、「ベーシックインカム運動の京畿道モデル」とされる「青年基本所得」政策が新たに導入され、社会政策の新たな展開として注目された。社会的企業や社会的経済との関連でもこうした韓国でのベーシックインカムの試みを調査することが重視されざるを得ず、これについて聞き取り調査を行った。 さらに本年2月後半から3月はじめにかけて予定していた完州・全州の調査がコロナウイルスによる韓国入国が困難となり果たせなかった。
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今後の研究の推進方策 |
完州郡(全羅北道),全州市(全羅北道)の2地域についても調査を実施するとともに各地での調査結果を踏まえ、日本など諸外国の事例とも対比しつつ、非営利・協同事業を中心とした包括的な地域づくりをめぐるガバナンスの韓国的特徴や課題を明らかにする。その結果を踏まえて、水平的でネットワーク型のガバナンス」を到達すべき理念型として想定しつつ、韓国でのローカル・ガバナンスの内実が、行政主導からその理念型へと向かう、どのような段階にあるのかを検証し、ガバナンスをめぐる国際比較や類型論の構築をはかりたい。さらに、近年韓国でも注目され、一部地域ではすでに試験的に導入されている「ベーシック」・インカム」の試みを京畿道のそれを中心に検証し、より包括的なローカルガバナンス像を確定する作業を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年2月後半から3月に予定していた国際学術シンポジウム及び韓国での調査がコロナ・ウイルス感染拡大によって実施が延期となったために予定されていた出費が出来なくなった。延期の国際学術シンポ及び韓国での調査を次年度に実施し次年度使用額を使用予定である。
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