研究実績の概要 |
本研究は、韓国の社会的経済の取り組みが個々の事業体の育成・支援を中心とした“点“としての取り組みから、地域社会の再生・創造をめぐる“面”としての取り組みへの転換点にあるとの認識にたって、この新しい局面での地域社会の多様なステークホルダー間の重層的かつ協力的なガバナンスのあり方を、実証的かつ理論的に究明することを目的としている。2019年度以降の調査(忠清北道清州市、忠清南道洪城郡、大田広域市など)で は、こうした“面”への転換が確認できたが、2020年度以降に予定していた完州郡(全羅北道),全州市(全羅北道)、さらには済州島やソウルでの調査については新型コロナ感染拡大のため、実施出来なかった。2021-22年度についてもインターネットを通じた情報交換や資料収集に努めざるを得なかった。 一方、2022年5月、尹錫悦政権が成立し、韓国の社会的経済をめぐる環境が大きく変化した。2023年度は、本研究の調査地の一つである大田で開かれた「社会的経済の正常化のための大田社会的経済非常会議」などに取材し、保守政権下の社会的経済の状況について主に調査した。会議のタイトルに掲げられた「正常化」や「非常会議」などは、韓国の社会的企業や協同組合の推進主体が現在の保守政権下で直面している「非正常」や「危機」を象徴している。同会議での報告によれば政権交代以後、関連行政の態度が一変し、社会的企業の非効率や政府依存を非難するようになったとされる。実際、韓国社会的経済連帯会議によれば2023年度には、社会的経済と協同組合の縮小統廃合が企画財政部によって断行され、社会的経済関連の国家予算が56.6%削減されるなど政府の社会的経済に対する無理解や否定的な姿勢が目立った。逆に言えば、韓国の社会的企業が20年以上の歴史を積み重ねながらも依然として幼弱で政府依存の体質を脱却できていない状況が示されたといえる。
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