研究課題/領域番号 |
18K01468
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
藤井 篤 香川大学, 法学部, 教授 (90222257)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 赤十字国際委員会 / アルジェリア戦争 / ジュネーヴ諸条約 / 難民 / 捕虜 / 国際人道活動 |
研究実績の概要 |
本研究は植民地帝国支配の秩序の変動・同様に「人の移動」がどのように関連したかを解明することを課題にしているが、2018年度においては、アルジェリア戦争中に発生した捕虜や避難民の人権保護のために、国際的人道機関の赤十字国際委員会(ICRC)が紛争当事者たるフランス政府と民族解放戦線の間に立ちつつ、双方にどのような交渉・関与を行ったかを明らかにした。 フランス当局はゲリラ戦争を遂行する上で、テロ被疑者を大々的に収容施設に強制収容するとともに、先住民とゲリラとの遮断を図るべく、先住民の立ち退きを強行した。さらに戦火の拡大はアルジェリアからチュニジアへ越境する難民をも生んだ。このことは戦争被害者・難民の保護についての国際的関心を呼ぶことになるが、ICRCはこの紛争の発生直後から介入した。ICRCは1949年ジュネーヴ諸条約のこの紛争への適用をめざして、まずフランス当局を相手に交渉し、アルジェリア内部に展開する収容施設の訪問視察調査を繰り返し行い、拘禁された捕虜・市民に面会し、人道的基準に照らした生活環境の評価を行い、フランス政府に対して報告し、改善を勧告してきた。こうしたICRCの活動は強制力をもたないが、一定の生活環境の改善を生んだ。他方、ICRCは民族解放戦線(FLN)に対しても接触し、フランス兵捕虜との面会を働きかけたが、その成果は若干の捕虜の釈放などにとどまった。こうした非対称的な結果は、植民地宗主国と民族解放勢力の極端なパワー・インバランスの反映であった。ICRCは中立原則を守りつつ、人道主義と政治がせめぎ合う状況で、活動を続けていった。以上のことを明らかにした論文「アルジェリア戦争と赤十字国際委員会(ICRC)」を公刊した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年夏にはジュネーヴの赤十字国際委員会本部およびベルンのスイス連邦文書館で第二次史料調査を行い、アルジェリア戦争期の捕虜・難民問題への赤十字運動が行った取り組みの実態について理解することができた。またフランス在住アルジェリア人移民労働者の動向についてはパリ警視庁文書室での調査を行い、その概要を知ることができた。さらにアルジェリア人移民労働者を抱えていたベルギーでの民族主義運動の広がりとそのフランス外交上の影響については、フランス外務省文書館とベルギー外務省文書室で調査を行い、フランス・ベルギー両国間でその取扱いが懸念されていたことを確認した。 これらは以前から進めていた史料調査の継続であり、すでに赤十字国際委員会、フランス政府、民族解放戦線の三者間の交渉過程については、「アルジェリア戦争と赤十字国際委員会(ICRC)」『国際政治』第193号、2018年として公刊した。この論文ではフランス赤十字社(CRF)については触れていなかったが、CRFや国際赤十字運動におけるアルジェリア捕虜・難民問題への取り組みについてもまもなく論文をまとめる予定である。初年度の研究の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今年はアルジェリアからフランス本国への民族解放運動の波及・拡大について一層掘り下げた把握を行うために、今夏にフランスでの史料調査を継続する。ただしアルジェリア人移民労働者だけを対象とした調査には史料的限界があり、そこへの浸透を図る民族解放戦線の戦略や、ほかの民族運動・共産党との対立・競合について研究の力点を移す。さらにアルジェリアの境界を越えた民族解放戦線の活動地点としてイギリスがあり、そこでの活動実態とそれが英仏関係上にもたらした影響について把握するために、今夏に英国立公文書館での史料調査を予定している。ただしイギリス出張については、今後のイギリスのEU離脱問題の動向によっては来年度に延期するかもしれない。
|