研究課題/領域番号 |
18K01468
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
藤井 篤 香川大学, 法学部, 教授 (90222257)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脱植民地化 / 難民 / フランス / アルジェリア / 人の移動 |
研究実績の概要 |
アルジェリアの独立をめざして武装蜂起した民族解放戦線はこの紛争を国際化することを戦略的目標とし、世界諸国に駐在事務所を開設し、各界に対して独立の大義をアピールするとともに、支持・支援を要求して活動した。アルジェリア問題を国内問題とするフランス政府も対外的戦略を立ててこれに対抗せざるをえなくなった。 フランスの隣国ベルギーはアルジェリア戦争中にフランス政府の立場を強く支持してきた。両国はともにNATO同盟国であり、欧州統合の機関的推進国であり、さらにアフリカ領土をもち脱植民地化問題を抱えるという点で共通点をもった。ベルギーはアルジェリアでの民族紛争と仏領アフリカの制度改革がベルギー領コンゴにも波及してくると見ており、アルジェリア問題が国連総会の議題として討議される状況が将来コンゴ問題にも及ぶことを恐れていた。この心配からベルギーは強く対仏協調政策を展開していった。 またフランスとの国境沿いのベルギーの炭田地帯には多くの北アフリカ系移民労働者が在住していた。アルジェリアの民族解放勢力は民族解放戦線FLNとアルジェリア民族運動MNAに分裂し、相互に敵対・競合したが、ともにアルジェリア人労働者から支持・資金を獲得するために宣伝活動を展開した。フランスから国境を越えて活動する民族主義勢力の取り締まりをフランス政府はたびたびベルギーに要求したが、実効性は上がらなかった。 さらにアルジェリア戦争にはフランス軍の指揮下に外国人部隊が参加していたが、このなかには未成年者も含まれていた。戦争の本格化に伴い、わが子を外国人部隊に送ったベルギー人の親たちがベルギー政府に少年兵士の除隊・帰還を強く要求したため、この問題はフランス・ベルギー両国間の摩擦を生むことになった。ベルギー政府の対仏協調政策の基調は変わらないが、それは国内世論への配慮との間で揺さぶられていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ・ウイルス感染拡大のために2020年度に予定していた資料調査のための海外出張を中止せざるをえなくなり、2021年度の出張を期待して一年間の研究期間の延長を行った。そこで当初の研究計画をやや変更してフランス・ベルギー関係に即してアルジェリア戦争の展開を追求することにした。アルジェリアの脱植民地化が両国関係にどのような影響を与えたか、ベルギーの対仏支持の背景にはコンゴ問題への考慮がどの程度作用していたのか、両国間では状況認識や行動に齟齬・対立はなかったのかなどを課題として追求した。この課題にはベルギー在住のアルジェリア人移民労働者たちの動向や、彼らに対して影響力を行使しようとするアルジェリア民族主義勢力の越境的活動、外国人部隊に参加したベルギー人少年兵士の帰還問題など、「人の移動」に関わる問題が含まれている。ベルギー政府はコンゴ問題を考慮しながらアルジェリア問題で対仏協調政策を続けたが、上記の国内で活動するアルジェリア民族主義勢力の取り締まりや外国人部隊少年兵問題をめぐって、フランスとの間で対立・亀裂を抱えた。また強い対仏支持がアラブ世界から反発をかうことを恐れてもいた。以上を明らかにした。 この研究成果を2020年度の日本国際政治学会研究大会(オンライン)の部会2「帝国的秩序の崩壊と西側同盟」において「脱植民地化と西側同盟--アルジェリア戦争とフランス・ベルギー関係」と題して報告発表した。この報告を基礎とした論文をある雑誌に投稿して現在査読審査中であり、今年中に公刊される見通しである。この学会報告に基づいて、ベルギー国内への民族主義勢力の浸透や外国人部隊ベルギー人少年兵士帰還問題など、「人の移動」に関わる問題がフランス・ベルギー関係をどのようにゆさぶったかについて、今年中に別の論文でまとめる準備をしているところである。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には資料調査のための海外出張が可能になることを期待していたが、現時点での新型コロナ・ウイルス感染拡大状況を考えれば、やはり困難である。そこでさらに研究計画を変更する。アルジェリア戦争ではフランス軍の補完勢力として従軍したアルジェリア人兵士がいた。アルキと呼ばれる彼らは独立後のアルジェリアでは民族の裏切り者として扱われ、その多くがフランス本国へ逃亡してきた。これも脱植民地化に伴う「人の移動」に当たる。ヨーロッパ系住民の引揚者とは違って、アルキは「引揚げ」後の住宅入居、就職、福祉受給において最も不利な扱いを受けてきた。本国ではようやくアルキの国家への貢献が顕彰されるようになったが、その顕彰は植民地支配の過去への反省とは矛盾する側面をもつ。今日でもアルジェリアはフランスに対して植民地支配への謝罪を要求しており、アルキをどのように評価・処遇するかは現代フランスにとっても重要な問題として残っている。アルキをめぐる言説や政治を取り上げ、脱植民地化についてのフランス人の意識を探ることは今日的意義をもち、本研究課題に沿うものだと考える。 海外出張ができない限り、一時史料にはアクセスできないので、二次文献に依拠することにならざるをえないが、文献リサーチはほぼ終わっている。アルキについての研究はアルジェリア戦争中の活動と、フランスへの「引揚げ」後の定着とに大別されるが、後者に焦点を当てて、研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ・ウイルス感染拡大のために2020年度に予定してた海外出張ができなかった。そのために予算をほとんど使わず、2021年度に出張できるように備えた。今年度に出張ができるのかどうかを感染拡大状況との関連で慎重に判断しながら、予算を適切に支出していく。
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