本研究は「人の移動から見た脱植民地化の国際関係史的研究」を課題とし、①アルジェリアからフランス本国および近隣諸国に行った移民労働者、②戦火を逃れ、立ち退きを迫られたアルジェリア難民の2点を対象として研究を計画していた。ただし研究の途中でコロナ禍のために海外出張ができず、当初の研究計画を一部変更せざるをえなかった。 まず②については赤十字国際委員会(ICRC)の活動に焦点を当てた。ICRCはフランス政府と交渉し、フランスがアルジェリア各地につくったアルジェリア人収容施設を10次にわたって視察し、その状況を報告した。このことはフランスによる拷問・虐待の根絶にはつながらなかったが、一定の人権状況改善には役立った。他方、アルジェリアの民族解放戦線(FLN)は主権国家ではなく、ジュネーヴ諸条約の締約国の資格もなかったため、ICRCのアプローチを受け入れても、若干の捕虜の解放などを行うにとどまった。 次に①についてはフランスの隣国ベルギーを取り上げた。競合する民族解放勢力(FLNとMNA)がベルギーにも浸透し、相互にテロを繰り返しながら、同国の炭鉱地帯で働くアルジェリア人労働者に対して募金・支持を求めて競い合い、FLNが優位を確立していった。こうした民族解放勢力の活動の取り締まりをフランスはベルギー政府に強く求めたが、コンゴ問題を抱えるベルギー政府はアルジェリア問題でのフランスの支持と、伝統的に寛容な外国人政策との間で対応に苦慮した。またベルギー社会では、テロへの不安とともに、外国人部隊に参加したベルギー人少年兵の除隊・帰還を求める親たちが政府を突き上げ、対仏交渉による解決を求めた。さらにベルギー左翼が結成した「アルジェリア平和委員会」は、FLNおよびアルジェリア独立を支持し、ベルギー政府の対仏協調路線を強く批判した。
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