研究課題/領域番号 |
18K01472
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
六鹿 茂夫 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 国際関係学研究科附属広域ヨーロッパ研究センター客員研究員 (10248817)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 欧米・ロシアの新冷戦 / 16+1 / 一帯一路 / バルカン・シルクロード / 米中新冷戦 / 中国脅威論 / 中露協力 / 二つの新冷戦 |
研究実績の概要 |
2019年度は、米中新冷戦と欧米とロシアの新冷戦が、EU=中国関係や中露関係に及ぼす影響について分析し、以下を骨子とする成果を六鹿「二つの新冷戦の中で揺れる中国の「16+1」戦略」(『東亜』2019年9月号)に発表した。 中国は2018年のEU=中国首脳会議の頃からEUに歩み寄り、翌年のドブロヴニク「16+1」首脳会議でも、EU諸機関の代表が文書作成交渉に参加するなど、「16+1」交渉をEU=中国協議メカニズムを基礎に行うことに同意した。中国の対EU譲歩は、米中新冷戦が激化する中で、欧米関係に楔を打ち込むことを狙いとしていた。しかし、他方で中国は、2019年春にギリシャを「16+1」に加え、イタリアと「一帯一路」の覚書を結ぶなど、21世紀海のシルクロード戦略をいっそう強化した。 このように米中新冷戦は中国の対EU政策を硬軟両様織り交ぜた外交戦略へと転換させたが、EUの対中政策は、EU投資スクリーニング法を採択するなど強硬姿勢が続いた。それは欧州理事会が示した、中国は単なる経済的競争相手ではなく、体制上のライヴァルであるとの対中認識に基づいていた。また、米中新冷戦は中・東欧地域にも波及し、17カ国の中には対米同盟を優先する国々が現れた。 かくして米中新冷戦は中国の対欧州政策を難しくしたが、欧米とロシアの新冷戦は中国外交に有利に働いた。欧州における中国脅威論を相対化し、中央アジアのみならず中・東欧やバルカンにおいて中露の潜在的利害対立を緩和し、両国の協力を促進してきたのである。とはいえ、中露間の潜在的な経済的利害対立や戦略目的の根本的な相違に加え、「16+1」加盟国の中にロシアを仮想敵国と見なす国が存在するなど、中露協力は脆さや矛盾を孕んでいる。 二つの新冷戦は、諸大国関係や諸大国の利益が錯綜する地域の小国に様々な影響を及ぼしながら、国際政治をますます複雑化させているのである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は三つの研究の柱を立てていた。1)欧州=中国関係の新たな展開を追うこと、2)中・東欧における二つの冷戦のかかわりを分析すること、3)新冷戦の包括的分析枠組みの構築に向け、米中、中露、米露関係にも分析を広げることである。1)と2)の研究成果は論文にして公表できたが、コロナウィルスの世界的な拡散により、当初2020年2~3月に予定していた中・東欧およびバルカンへの海外出張を断念せざるを得なくなったため、同地をめぐる新冷戦の構造、とりわけ、中国とロシアの関係について現地でインタビュー調査をできず、オリジナルな研究へと発展させることができなかった。それゆえ、国内において、欧州=中国関係の歴史的展開に関する文献を収集し、研究を進めたが、いまだ成果を出すに至っていない。このように研究計画を修正した結果、3)の研究へと入っていけなかったため、研究は「やや遅れている」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、2020度も引き続き欧州と中国の新たな展開を追う。とりわけ、コロナウィルスの深刻な被害を受けた欧州が対中政策をいかに変化させつつあるのか、中国の対欧政策にいかなる変化がみられるかに注目していく。第二に、コロナウィルスの拡散によって海外現地調査ができず、当初の予定を変更して開始した欧州と中国の歴史的展開について、さらに研究を進める。2016年頃から激しさを増した欧州と中国の関係を、歴史的流れの中で位置づけることが目的である。第三に、海外調査が可能となれば、昨年度実施できなかった中・東欧およびバルカンで現地調査を行い、二つの新冷戦が同地域に及ぼす影響について研究をさらに深める。第四に、新冷戦の包括的分析枠組みの構築に向け、米中、中露、米露関係にも分析を広げていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月~3月に予定していた海外出張がコロナウィルスの世界的拡散によってできなくなったため、次年度使用額が出た。2020年度は、新冷戦に関する書籍の購入と情報収集、海外現地調査に使用する予定である。
|