研究課題/領域番号 |
18K01472
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
六鹿 茂夫 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 国際関係学研究科附属広域ヨーロッパ研究センター客員研究員 (10248817)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 新冷戦 / ロシア / ウクライナ / NATO / 黒海 / ドンバス / トルコ / モルドヴァ |
研究実績の概要 |
2021年度は、ロシアの瀬戸際外交(2021年~22年)に関する研究を行い、その理由と目的について以下なる結論を得た。1.ロシアのウクライナ侵攻の背景には、冷戦後の欧州国際秩序への不満がある。ロシアはNATO/EUを軸とする冷戦後の欧州国際秩序において発言力を喪失し、NATO/EU東方拡大によって、バルト海から黒海に至る地域の権力闘争においても劣勢に立たされた。また、両機構の価値外交に触発された民主化革命によって、プーチン体制の存続さえ危険に晒された。2.プーチンおよび彼の権力基盤であるシロヴィキは、かかる冷戦後の欧州国際秩序をロシアの国益に沿った秩序に変えるため、2014年に彼らがその要と見なすウクライナに侵攻した。クリミアを併合して黒海艦隊基地を取り戻すとともに、ドンバス紛争を開始して、同国をロシア勢力圏に留める戦略に出たのである。ところが、同戦略は功を奏さず、むしろウクライナの欧米への接近が進んだ。3.かかる状況において、米中対立の先鋭化、米国の衰退と脆弱なバイデン政権およびドイツ中道左派連立政権の誕生等、クレムリンが巻き返しをはかるのに好都合な国際環境が生まれた。4.これを好機と捉えたプーチン政権は、2021年初頭にバイデン政権が誕生するや、ロシア軍をウクライナ国境に集結させて瀬戸際外交を始動させた。軍事的圧力を掛けながら欧米に受諾不可能な安全保障要求を突きつけ、ウクライナ侵攻を正当化するための口実を得ようとしたのである。そして米国とNATOが案の定同要求を拒否すると、自国の安全保障は自力で達成する以外ないとして、2月24日未明にウクライナへの軍事侵攻を開始した。軍事目的をウクライナの中立・非武装としたのは、同国をロシア勢力圏に括り付けるための前段階として、「力の真空」状態を醸成するためであったが、長期的な最終目標は前述したごとく冷戦後の欧州国際秩序の再編にあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、第一に、米ソ旧冷戦、欧米とロシアの新冷戦、米中新冷戦を比較検討し、それらに共通する特徴と相違性を明らかにし、その成果を霞山会主催午餐会において、「新冷戦下で硬化する欧州の対中政策-3海(バルト海、アドリア海、黒海)からインド太平洋へ」と題して発表した。また、第二に、ロシアのウクライナ侵攻の理由と目的、および侵攻へと至る過程について、冷戦終焉時にまで遡って研究を深め、その成果を、霞山アカデミーにて、「ロシアの瀬戸際外交をどう見るか-新たな局面を迎えた欧米とロシアの新冷戦」(https://www.youtube.com/watch?v=-bWBRnP4A4M)として公表するととともに、静岡県立大学広域ヨーロッパ研究センター主催の研究会においても発表した。これらを踏まえて、研究は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、三つのテーマに取り組み、研究の総括を行う。第一は、新冷戦の一つの重要な要因と考えられるプーチンの権威主義体制と、同体制を含むロシアの内政について研究を深める。とりわけ、プーチン体制初期の内政と外政の関連性、プーチンのインナーサークル、権力基盤、ロシア民族主義、ファシズム研究に力点を置く。第二は、黒海地域の国際関係という視点から、新冷戦研究を進める。既に2014年までの分析結果は、六鹿編著『黒海地域の国際関係』(名古屋大学出版会、2017年)において公開しているので、それ以降2022年までの分析を進める。第三は、ロシアのウクライナ侵攻が、欧州国際秩序や黒海地域の国際関係にいかなる影響を及ぼすのか、また中国を含む国際政治全体にいかなるインパクトを及ぼしつつあるのかについて研究を進める。これらの研究と平行して、コロナの感染状況を見ながら、海外での聞き取り調査の準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に計画していた海外研究がコロナウィルスの世界的な拡散によって実現できなかったため、次年度使用額が発生した。2022年度は、新冷戦に関する書籍の購入と情報収集に加え、海外現地調査に使用する予定である。
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