本研究では、ポスト・カストロ時代におけるキューバの「革命外交(Diplomacia Revolucionaria)」の変化と継続性について、文献と現地調査(2023年9月)を通じて探求した。まず「革命外交」の特質について歴史的視点から概観した後、近年における同国の対外政策を分析し、「革命外交」の継続性および変化、またその論理を考察した。研究の前提として、2006年以降に生じたキューバの体制上の変化が外交政策決定においても影響を及ぼし、伝統的な革命外交に影響を与えたこと、その一方で革命外交の中核をなす、変化しない本質がある、という仮説を設定した。 米国との国交回復(2015年)の後、トランプ政権下での関係悪化、COVID19への対応、経済悪化(観光産業への大打撃)、国内の反発への取り締まりとそれに対する欧米からの批判、友好国ロシアによるウクライナ侵攻といった状況をキューバはいかに乗り越えてきたかが分析の軸となった。研究の結果明らかになったことは、米国の対キューバ政策が、国際的な対キューバ圧力の形成にはつながらなかったこと、それどころか、いわゆるグローバル・サウスにおいて対キューバ支持が想像以上に強固であること、キューバが公式外交チャネル以外に民間レベルの国際的ネットワークを介して深刻な経済危機や米国の圧力に抵抗してきたこと、こうした多元的外交によってキューバという小国が孤立を回避し、支持を獲得し、国際的な影響力を保持しつづけているという事実であった。したがって、ポスト・カストロ時代におけるキューバ外交の「変化と継続性」について抽象化すれば、ほぼ全ての事象は「継続性」の論理から説明される。革命外交をナショナリズム、国際主義、反覇権主義、人道主義、平和主義、多国間外交、災害、医療、文化などのソフトパワーといった側面から分析した結果、「価値の外交」の継続が明らかになった。
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