研究課題/領域番号 |
18K01475
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
松本 佐保 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (40326161)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バチカン / 人道的介入 / キリスト教民主主義 / 移民・難民問題 / 環境問題 / 国際機関 / 国連 / EU |
研究実績の概要 |
バチカンのその活動における主要なる国際機構との協力関係について、一昨年度は国際連盟などの国連の前身機関や赤十字などとの協力関係において、具体的にどのような平和構築を試みてきかなど歴史的な活動についてスイスのジュネーブにある諸国際機関の文書館での調査資料を中心に明らかにした。これに対して昨年度は、これら歴史的な研究を踏まえつつ、2000年以降から現在に至るまでのバチカンと諸国際機関、例えば国連やEUとの協力によって行われてきた活動を中心に調査を行い、また海外及び国内の学会で研究報告を行い、これらの成果を著書にまとめて出版するに至った。 バチカンのEU機関との協力活動については、夏季休暇の8月中旬から9月下旬にかけて本研究課題に関わって、英国での調査を経た後、EU本部のあるブルュッセルに拠点を置く欧州司教団(カトリック)と世界教会協議会(プロテスタント)の欧州版である欧州教会協議会に連絡を取り、これら団体の代表者にインタビューすることに成功した。前者はバチカンの国務省の直轄組織であり、バチカンの欧州政治への関与について具体的な活動を把握するに至った。この分野について欧米ではすでに出版されている研究がいくつか存在するものの、ここまで具体的には明らかにされていないことから、学術的独自性を見出すこととなった。これらの調査を踏まえて、9月初めに英国の国際関係史学会で発表、また10月には日本国際政治学会で部会のパネル企画及び報告者としてカトリックの「キリスト教民主主義」とバチカンの関係、またプロテスタントとのエキュメニカルな関係も視野に入れた研究発表を行った。2月には欧州の移民・難民問題とバチカンと関わりのあるカトリック系NGO活動について上智大学で招聘報告、そして年度末には、今までの成果をすべたまとめた単著、『バチカンと国際政治ー宗教と国際機構の交錯ー』を出版するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バチカンの国際機構を通じての平和構築への関与は19世紀に教皇レオ13世が出した「Rerum Novarum」という回勅、労働者の権利や人間の尊厳を主張した社会回勅に基づき、「Rerum Novarum」40周年にピウス11世が出した回勅「Quadragesimo anno」は「補完性の原則」の基礎となり、今日のEU組織が設立された理念や歴史的には仲裁裁判所の創立などにも関わってきた。バチカンには国際的な紛争仲裁について世界各国の国境紛争や領土問題の仲介を行っていた実績があり、これが部分的に踏襲されたものである。これらを踏まえてバチカンが取り組んできた紛争仲裁や終戦工作、また国際機関との協力体制などが歴史的にまたほぼ現代に至る過程も明らかにされつつある。またバチカンがカトリック教会とプロテスタント教会の組織と協力、エキュメニカル(教会一致、宗派が異なるキリスト教会が協力)が推進され、平和構築や人道的な活動がより具体的性を持つようになってきた。 また昨年度くれにはバチカンが今まで閉じていた第二次世界大戦から戦後1957年までその機密(秘密)文書を公開することを宣言したことから、本研究課題にとっては、より発展性を見る可能性が示唆された。公文書バチカン市国内の秘密文書、英国の公文書館や英国国教会の文書館、スイスのジュネーブの諸国際機関の文書館、米国の議会図書館などで入手した史料を使用して、また上記のインタビューなどによってこれらとの関係性を明らかにすることができた。これらの史料収集や学会発表のために、主に旅費として予算が使用された。また具体的には従来の研究において中心的な研究課題ではなかった、移民・難民問題についても学術発表の機会を得たことで、バチカンが本問題にどう関与したいるかをカトリック系のNGOとの活動と関連付けるなど、新しい観点からの研究への広がりともなった。
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今後の研究の推進方策 |
バチカンが諸国際機関と具体的にどう関わってきたかは、国際的な援助活動にしても紛争解決、労働、農業、工業・産業、移民・難民問題、地球環境問題などの多岐にわたる。その中でも上で既に述べた、移民・難民問題は特に欧州においては強い関心事項である。またアジアや日本でも関心が高まっている。現在の国連の難民高等弁務官事務所は、戦後に戦争に伴う人の移動や戦争終結で敗戦国が植民地から人的な撤退をする過程で生じてきた人の移動の問題に起源があり、それがやがて移民・難民問題全般を扱う国際的な難民問題の中心的な機関が出来上がっていった歴史的な経緯がある。そのため今後は移民・難民問題にも関わって、バチカンと諸国際機関の協力関係による平和構築についても史料を収集し、分析と考察を行う予定である。 また環境問題についても昨年度末に出版した『バチカンと国際政治ー宗教と国際機構の交錯』の第七章で扱った、現教皇フランシスコが2015年に出した225頁に渡る回勅『ラウダート・シ(共に暮らす家を大切に)』の国際的なインパクトについては、国連環境計画との協力関係だけでなく、水資源の問題や貧困問題について活動するNGOとの関わりを今後明らかにすることを目指す方向性がある。地球温暖化により水害など自然災害の増加は国家単位で、またグローバルな規模で貧困層を直撃し、彼らをより困難な状況に陥れ、経済格差の拡大に繋がっているからである。 この様にすでに著書や論文で成果を報告した事項についても、引き続きインタビューを行うなど今後の展開について注視することが本研究課題の発展となることを確認している。
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