研究課題/領域番号 |
18K01475
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
松本 佐保 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (40326161)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バチカン / 宗教 / 紛争解決 / 国際機関 / 平和構築 |
研究実績の概要 |
本研究課題「バチカンと国際機構―紛争解決と平和構築のための宗教的視座ーの研究」の二年目であるが、前研究課題の蓄積もあり、著書『バチカンと国際政治ー宗教と国際機構の交錯ー』千倉書房から4月に刊行するに至った。本著の第6章と第7章では特に冷戦後の世界で多発する宗教・民族紛争に対して、バチカンが国連などとキリスト教系NGOとの協力を通じて、紛争解決や平和構築に貢献した内容について、詳細が述べられており、本研究課題の直接的な成果である。本著の刊行により、諸研究機関、例えば京都の日本国際文化センターでの、グローバルな歴史・政治・文化研究の講演会に6月に招待され、登壇し「バチカンとグローバル・ヒストリー」について研究報告し、これについても臨川書店から論文集が刊行された。 夏休みの期間を利用し、イギリスの公文書館でバチカンとイギリス、そして国際機関との関係について、特に紛争解決のための平和構築活動について資料調査を行った。秋にはイタリアでの学会で本調査成果を発表する機会に恵まれた。これら海外での調査や成果発表のために海外旅費が使われた。 11月下旬には、教皇フランシスコが初来日したことで、上記の著書が重版となり広く読まれたのと同時に、メディアなどでも紹介されることとなった。これらの活動は必ずしも学術的な内容ではないが、本研究課題が学術を含む多くの人々に知られることとなった。教皇フランシスコの長崎と広島への訪問は、現在は紛争はない日本における平和構築の重要性、それにあたっての多国間協調などの国際機関との関係などが議論されたからである。 2月に予定されてい海外出張が、コロナ感染症の拡大で一部実現しなかったものもあったが、全体としては十分な研究実績を出せたのではないかと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度については単著の刊行や、これに関しての各研究講演や共同研究会での成果発表など概ね予定通りに本研究課題は進んでいる。 しかしながら、コロナ感染症の拡大で、2020年度の海外での調査については予定通りに行かない可能性があり、これは懸念要素ではある。海外出張が困難な場合、すでに海外で行った調査2019で収集した史料などを使用して論文を執筆することが考えられる。 イタリア共和国の首都ローマに隣接するバチカン市国では、2020年3月3日に以前全く公開されていなかった、過去数十年間も閉じられていた機密史料が、研究者に公開されることとなった。内容的には戦後のバチカンを明らかにする内容の史料が多数あり、本研究課題である国際機関、特に国連との関係についても多くの史料が公開されたのである。 申請者も本機密史料の閲覧が許可されており、資料へのアクセス権はあるものの、これ以降にコロナ感染症が拡大したことで、バチカンへの史料調査には現時点では渡航が許されていない。今後の展開にもよるが、2020年度中にバチカン市国への渡航が解禁となれば、本機密史料を閲覧する計画はあり、これが実現されることを強く望んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は本研究課題の最終年度であり、過去2年間の本研究課題の最終年として、本研究を纏め総括を行う。また次なる研究課題へのステップとすることも想定される。本研究課題の中で、バチカンと国連などの国際機関との関係において、紛争解決が主要なる視座であったが、こうした紛争解決や平和構築にとって重要な問題の一つとして、地球環境問題がある。一見直接紛争などとは関係ない様に思われるが、地球温暖化により洪水などの自然災害の多発は、特に途上国では安全な住む場所を求めての紛争などにも繋がりかねない。またこうした自然災害の多発が、貧富の格差を齎し、紛争の原因になる不安的な社会を齎す可能性がある。教皇フランシスコは、2013年の回勅「ラウダート・シ」で、地球温暖化問題を解決することこそ、平和構築への道であると述べた。この回勅は国連による気候変動に関するパリ協定に影響を与えた。つまりバチカンという宗教の担い手が気候変動など、科学的な問題と平和構築を結び付けたことになる。 近年のコロナ感染症の拡大においてもバチカンは、科学や医療と対立することなく対話路線を構築している。コロナ感染症をめぐっては国連の保健機関であるWHOをめぐり、米中関係の悪化、また世界の分断や、また各国で国内に社会不安を齎している。こうした世界情勢にあってこそ、バチカンと国際機関との協力による平和構築を再考する意義があると考える。つまり大きな枠組みでは宗教と科学(医学)の対話であり、本研究課題の範囲では新しい時代の宗教による平和構築を考察する研究の推進となるのである。
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