研究課題/領域番号 |
18K01475
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松本 佐保 日本大学, 国際関係学部, 教授 (40326161)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バチカン / 国際機関 / 紛争解決 / 平和構築 / キリスト教 |
研究実績の概要 |
コロナ禍で中止されていた海外出張が可能となり、今年度は夏休みの時期にイギリスやフランス、スイス、春休みの時期にはバチカン市国やイタリアなどに史料収集の調査に出かけることが可能となった。そのため夏にはイギリスの公文書館、フランスの国際機関、そしてスイスのジュネーブでは赤十字やWCC(世界教会協議会)などのキリスト教会の国際機関などで有意義な調査や貴重な史料を入手することが出来た。また昨年の2月下旬に開始されたロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響で、航路の変更やエネルギー価格の高騰による欧州出張に必要な航空券代が値上がりしたので、多くの海外渡航費が航空券代に使われることとなった。一方でジュネーブのWCC(世界教会協議会)では、ロシア正教会関係の史料も公開されていることから、バチカンとロシア正教会の関係もある程度把握することが出来た。現在のロシアの戦争にバチカンが和平に関与を試みているが、これは歴史的にロシア正教会とバチカンとの間にコミュニケーションが冷戦期から存在した実態も見えてきた。 また夏休み期間は閉鎖されているバチカン使徒文書館に春休み期間に出かけて、新たに公開されたばかりの史料を閲覧することが許され、バチカンが第二次世界大戦中も和平のために仲介的な役割を果たそうとした実態が明らかになってきた。バチカン市国内に存在する以前は未公開であった国務省の史料も見ることが出来た。またローマ市内にあるイエズス会文書館での史料調査を行い、バチカンが関与している草の根的な世界中で行われている援助や支援活動の実態が明らかになり、これらが地域によっては紛争の解決や平和構築にも重要な役割を果たしていることが分かった。これらの史料調査の実績は、研究会や角川財団のシンポジュウムなどで登壇しての学術的な発表や、またアメリカの出版社から刊行された論文集に一章分を執筆するなどの業績の発表の機会に恵まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で約2年間、海外出張が禁止あるいは大幅に制限されていたことで、研究が大幅に遅れる原因となった。しかしその間も現地のリサーチャーと連絡を取り合ったり、デジタルで公開されている史料などを入手することで何とか研究を継続していた。そうしたことも手伝って海外出張が解禁されるに伴い、効率よく海外出張中に史料調査を行うことで遅れていた研究の進捗状況をある程度挽回することが出来た。 またコロナ禍では英文での論文執筆などアウトプットに集中し、必要な場合は海外の研究者とオンラインでのやり取りや研究打ち合わせなども行い、アメリカの出版社から刊行された論文集の論文を完成することが出来た。また日本国内で行われた研究会もコロナ禍が酷い時はオンラインで、徐々に解禁されるに伴い対面での学会参加や、研究会での発表やシンポジュウムでの登壇など、遅れを取り戻すことが出来た。 またバチカン使徒文書館(旧機密文書館)の新しい史料の公開はコロナ禍で行われたこともあり、公開されたもののコロナ感染症拡大で一旦バチカン使徒文書館(旧機密文書館)が閉館される時期もあった。逆にそうした時期が海外出張禁止期間と重なったことで結果的には大きなダメージとならなかった。ダメージとはバチカン使徒文書館(旧機密文書館)の最新史料をいち早くアクセス出来る他国の研究者に先を越されることはなかったという意味である。またこのバチカン使徒文書館(旧機密文書館)の最新史料の中で世界中の研究者がいち早くアクセスしすでに研究発表を行っている分野が、ホロコーストとバチカンの関係に関わる問題についてであり、本科研費研究テーマとは直接関わらないことも幸いした。つまり本科研費研究テーマで、バチカン使徒文書館(旧機密文書館)の最新史料を閲覧した最初の日本人研究者となり、その成果発表もおおむね順調に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はすでに史料収集した文書の分析を綿密に行うと共に、バチカン使徒文書館(旧機密文書館)の最新史料全てを閲覧出来たわけではないので(こちらの文書館ではデジタルカメラやスマホなどでの史料の撮影は一切禁止であり、手書きのみが許される。コピーは不可能ではないが、当局に依頼して史料をデジタル化してからでないと入手できないため、高額な支払いと莫大な時間がかかる)、再度、バチカン使徒文書館(旧機密文書館)に史料調査に行くことが今後の研究の推進のために必要となる。夏休みの時期は閉館されるため、春休みの時期に、つまり年に一度しかバチカン使徒文書館(旧機密文書館)の史料調査に行くことが出来ないために多少時間を要する。またジュネーブやイギリスなどでの史料調査も併せて必要となってくる。また国際機関ということで国連の史料を所蔵している文書館が、ニューヨークの国連本部の近くにあることから、アメリカへの出張が必要となる。また今回のバチカン使徒文書館(旧機密文書館)に史料調査に出かけたローマでは、イエズス会の文書館だけでなくイエズス会の神父様で研究者にして現教皇フランシスコの外交アドバイザーの側近や、バチカンの外務大臣であるギャレガー大司教と知り合う機会を得た。そのためバチカン外交に直接関わるこれら人物に次回のバチカン(ローマ)への史料調査の機会に、事前に調整したインタビュー調査を試みることも視野に入れている。例えばギャレガー大司教は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、昨年の5月に教皇フランシスコに代わってウクライナの首都キーウを訪問している。現在まだ成功はしていないものの、教皇による和平仲介の試みの実態を知ることが出来る。以上の様に引き続き史料調査と史料分析に加えてインタビュー調査、そしてこれらを書籍にまとめて刊行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍が一定程度収束した海外での史料調査が可能になってから、まだ短期間しか経過しておらず、全額使用するに至らなかった。また欧州への航空運賃が、ロシアによるウクライナ戦争の影響で、ロシア上空を飛べず飛行時間延長と、ロシアに対する経済政策などによって燃料費が高騰し、結果航空券代が高騰したことも、もう一つの理由である。なぜなら、本研究課題の科学研究費の使用をコロナ禍で、海外渡航が禁止だった時に延長することになったが、その間、認められているということで別途科学研究費を申請し、それが受給されることになった。そのため、航空券代の大幅な高騰に伴い、この別途取得した科研費を航空券代に充てたことで、こちらの科学研究費が全額を使いきらない状態で、次年度に持ち越されることとなった。次年度では、国内で行われる学会や研究会がようやく全面的に対面に戻りつつあることから、これら繰り越し金は国内での旅費に充てて、本研究課題の成果報告である学会や研究会に出けるために使用する予定がすでに決まっている。
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