本研究課題では、バチカンが聖座(Holy See)として国連やその他の国際機関とどの様な関係を構築してきたか、そしてそれが国際政治にどの様な影響を与えてきたかを考察した。国連や国連の専門機関であるILO(国際労働機構)やFAO(世界食糧計画)のみならず、スイスのジュネーブに本部がある世界教会協議会(WCC)との関係、さらに国連の難民問題の専門機関であるUNHCR(難民高等弁務官事務所)、さらにこれら国際機関との協力関係にあって不可欠なキリスト教系のNGO、特にカトリックのNGOがこれら国連やその専門機関とのパートナーシップ関係にあることに着目し、これらとバチカンの関係を具体的に明らかにしてきた。また世界教会協議会(WCC)の主要なる活動は、英国国教会(アングリカン・チャーチ)及びその系列教会である米国聖公会、また英国と連邦関係にあるカナダや南アフリカでの活動が活発であることから、この機関を通じてバチカンと英国国教会とその系列教会、そして他のプロテスタントの諸教会、さらにはロシア正教会を中心とした正教会もWCCとはパートナーシップ関係にあることから、バチカンとロシア正教会との間接的な関係改善と関係構築において重要であったことがわかった。特に冷戦期にはソ連政府にロシア正教会や他の東欧諸国の正教会の活動は公的には弾圧されていたものの、ロシア正教会は世界教会協議会(WCC)を通じて、西側諸国との非公式な外交関係を持ち、これにあたりバチカンが仲介的な役割を担ったことが明らかとなった。 こうした調査のために、スイスのジュネーブでの調査や英国での調査、また国内では主にプロテスタントのキリスト教研究であるピューリタニズム学会での活動等、国外と国内の旅費が主なる支出となり、その成果は研究発表や論文や研究ノートとなった。
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