本年度は最終年度であったため、3年間の総まとめとして、以下の点について総括した。まず第1に、難民レジームのアクターが無国籍をどう認識していたかである。黎明期の難民レジームでは、国家を中心としたアクターは、無国籍性に付随する事象を、越境する問題と捉えていた。とりわけ、国際連盟のフォーラムを通じ、無国籍性が国際的問題として認識化されたプロセスを中心に整理した。 第2に、原則・規範・ルール形成における無国籍の要素について、当時の国際条約・協定を中心に検討し、主要国際文書に関する交渉過程を知ることができた。それを元に、現代の難民レジームに与えた影響を、国際実行の観点から検証した。 第3に、昨年度までに入手したデータを検討し、国際連盟理事会と国際連盟下に設立された難民高等弁務官事務所を対象に、意思決定手続やオペレーションにおける無国籍の位置付けを試みた。特に、同事務所のステートメントやノートに残された情報は重要であった。 第4に、1920年代と1930年代の間で大きく変化した、無国籍に対するアクターの認識について考えた。ベルサイユ体制・国際協調主義の確立と崩壊といった国際環境の変容を念頭に置きながら、認識の変化の規範への作用について検討した。 最後に、本年度最も注力したのは、歴史的に継承された事柄の現在の状況での含意と、現代の無国籍問題を理解し解決するための手がかりの探求であった。黎明期の難民レジームにおける無国籍を知ることにより、現代の国際実行(保護、防止、削減)が過去からの継承の上に成り立っていることが理解できた。戦前のレジームにおける無国籍の営みが、現在問題視されている事柄の起源の一つであることを念頭に、現在の司法の動向や国家慣行を検討することができた。
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