研究課題/領域番号 |
18K01483
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
川村 陶子 成蹊大学, 文学部, 教授 (80302834)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際関係論 / 文化政策 / ドイツ / 文化外交 / 移民統合 / 多文化共生 / 文化交流 / 教育政策 |
研究実績の概要 |
本研究では、多様な文化的背景を持つ〈ひと〉が交錯する国際社会の安定と創造的発展のための政策実践のあり方を、ドイツの経験に基づき総合的に検討する。異なる政策分野で行われる文化の伝達・交流・振興を、国際関係の文化的運営行為として調査分析し、新しい理論枠組みの構築にもつなげていく。 初年度の2018年度は、3つの作業を行った。第一に、国際文化関係運営の理論枠組み構築に向けた予備的作業である。8月にタリン大学で開催された国際文化政策会議(ICCPR2018)に参加し、国際文化関係の研究を国際関係研究と文化政策研究にまたがる新しいアプローチとして位置づける報告を行った。先駆的業績を紹介しつつ、従来的な国際関係研究が十分に検討してこなかった非国家主体のトランスナショナルな関係や文化政策の領域に注目する本研究の射程を示した。日独の実例も短く検討し、〈くに〉の成り立ちや経験の異なる両国で国際文化関係運営のあり方に違いがみられることも明らかにした。関連諸分野の研究者から助言を受けたのに加え、欧州諸国の文化外交に関するパネル司会、その他さまざまなセッションへの参加を通じ、多くの新しい知見を得た。 第二に、8月にボンで国際文化関係運営の現状に関する調査を行った。同市に本拠をおくドイツ学術交流協会(DAAD)、ドイツ・ユネスコ委員会(DUK)、文化政策協会、連邦政治教育センターを訪問し、インタビューと資料収集を通じて文化外交、国内文化教育政策、移民統合政策が錯綜する政策現場の状況を確認した。 第三に、10月にベルリンのドイツ外務省を訪問し、文化外交の最新の展開と方針に関する調査を行った。文化コミュニケーション局のスタッフにインタビューを行い、とりわけ2010年代半ば以降の難民大量流入、2017年の連邦議会選挙といった諸要因がドイツの国際文化関係運営に与えた影響に関する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
科学研究費申請時には、ドイツにおける国際文化関係運営の政策実践について、文化外交、国内教育文化政策等の各分野を年度ごとに調査し、その成果をふまえて最終的に理論的枠組み構築へとつなげていく予定であった。 実際には、2018年8月の国際会議(ICCPR)における報告を通じ、枠組み構築の試行的作業を進めることができた。 政策実践の実態調査についても、ボンとベルリンの2箇所で、複数の政策分野にかかわる諸機関を訪問してインタビューおよび資料収集を行った(ベルリンでの調査は国際会議「日独フォーラム」に招聘された際の自由時間を活用)。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究活動を通じ、ドイツでは国際文化関係運営にかかわる諸組織の本拠地が国内の各地に分散しているため、政策実践に関する調査は分野ごとよりもむしろドイツ国内の都市ないし地方ごとに行っていくのが良いことが確認できた。 2018年度にボンとベルリンで調査を行ったので、今後はまずこれらの地域以外の場所を優先的に調査していきたい。 理論的枠組み構築に関しても、初年度の成果を整理・改善して発表するなどして、事例研究と並行する形で着実に作業を進めたい。 2019年度以降、研究代表者の本務校での役職業務および家庭の事情により、海外出張が妨げられる期間が発生する等の可能性も予測されるが、各年度の実情に応じて柔軟に研究を計画、遂行していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年10月に国際会議「日独フォーラム」に招聘されベルリン出張の機会を得たため、科学研究費を使用して同会議の前後にベルリンに延長滞在し、ドイツ外務省の訪問調査を行おうと考えた。しかし外務省側と日程を調整したところ、実際には招聘会議日程の自由時間内に同省を訪問してインタビューを行うことができた。このため延泊用に交付を受けた助成金を使用しないで済み、次年度以降に繰り越すこととなった。
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