本研究では、多様な文化的背景をもつ〈ひと〉が交錯する国際社会の安定と創造的発展のための政策実践のあり方を、ドイツの経験にもとづき総合的に検討する。異なる政策分野で行われる文化の伝達・交流・振興を、国際関係の文化的運営行為として調査分析し、新しい理論枠組みの構築にもつなげていく。 補助事業最終年度の2023年度は、本研究を総括し次の研究へとつなげるため、3つの作業にとりくんだ。 第一に、2021年度の計画方針修正をふまえ、ドイツ対外文化政策の展開を国際文化関係運営の発展史のなかで分析・考察した大部の論文(2022年度に東京大学大学院に提出し論文博士号を取得)を改訂し、名古屋大学出版会から学術書として出版した。 第二に、2023年9月にポツダムでおこなわれた「連邦インタークルトゥーア会議」に対面参加し、ドイツでおこなわれている国際文化関係運営の広がりや議論・実践の状況を調査した。同会議は全国で国際文化交流や多文化共生にかかわる官民の担い手が集い、経験を共有し意見交換するものである。国際文化交流機関が国内の人種差別撤廃のために実施する活動や、移民統合と関連させた各種国内文化政策、国境地域における交流など、さまざまな現場の最先端を、実践に取り組む方々とも交流しながら知ることができた。会期の前後にはベルリンで、新たに設立された国際文化関係施設を訪問調査した。その後2024年2月には会議のフォローアップ会合(オンライン)も傍聴した。 第三に、国際交流基金へのエッセイ寄稿、および日本文化政策学会研究大会(2024年3月)での発表をおこない、国際文化関係運営の今日的意義やそこにおけるドイツの実践の特徴を総括した。エッセイは基金ウェブサイトにて日英両言語で公開され、また日本文化政策学会発表は研究大会メインシンポジウムでの講演であり、いずれも幅広い方々に本研究の成果を知っていただくことができた。
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