2023年度は「ポピュリズムの視点からの比較──田中角栄と小泉純一郎」(増田弘編著『戦後日本保守政治家の群像』ミネルヴァ書房、所収)を発表し、民主主義国家の政権にはポピュリズム的な対応をとる潜在的誘因があるが、それは既存の支持基盤の強さと、グローバル化の影響をどの程度跳ね返せ、または吸収することができるシステムであるかによって変わってくることが判明した。グローバル化が進展すればするほど、ポピュリズムを機能させようとすると移民排斥や保護主義の導入といった過激な政策をとる必要が出てくるが、日本の場合は自民党・業界の既得権益層を強固なベースとしていたため、そのような極端な政権はほとんど登場していない。小泉政権も、グローバル化に対応する弱者切り捨て的な政策を、ポピュリズム的な政治手法でカムフラージュして成功しただけで、ポピュリズムとは言えない。その結果、総じて日本にはポピュリズム政権が登場する危険性は低いという結論が得られた。 研究期間を通じて、1970年代から現在まで、田中、中曽根、小泉、安倍内閣と断続的にではあるが概観した結果、四つのグローバル・ショックのうち、一つ目のソ連の脅威のグローバル化には日米関係強化と日中関係改善で無事に対処できたが、その反面で中国の国力増強に伴うグローバル化する脅威への対応にはかなり失敗したといえる。経済的には、貿易面のグローバル化にはそれなりに対応して切り抜けてきたが、金融面のグローバル化への対応については、研究がそこまで及ばなかったものの、この点での失敗が大きかったのではと考えられる。
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