研究課題/領域番号 |
18K01489
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
伊藤 剛 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (10308059)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 米中関係 / 保護主義 / 自由主義 / 日米中関係 / 同盟 |
研究実績の概要 |
米中関係を研究するにあたって、その概要は大きく三つに分かれる。 第一に、近年アジア諸国で海洋安全保障が大きな課題となっているが、これについて雑誌、新聞に2本のエッセイを寄稿した。双方ともに、海洋空間の陸上との差異について論じたもので、前者の公共性について強調したものである。 第二に、米中の狭間に存在する日本が、片方でアメリカと、他方で中国とうまく渡り合っていくために、どのようなスタンスを採用してきたか、また今後採用すべきかという論考である。これは、最初中国社会科学研究所との対話から始まり、最終的には日中韓三国の対話へと発展した。 そして第三には、年の変わり目から徐々に出てきたコロナ禍への世界的対処・日本による対処についてである。新型コロナウイルス後の世界は、まさに弱肉強食の国際政治が再興するということである。相手国をねじ伏せるにしても、他国と協調政策を採るにしても、どちらにせよ強い国がイニシアティブを取って行く。これについても、雑誌に論考を掲載した。 今後の米中両国は、それぞれが他の国が喜ぶことをすると「リベラル」と呼ばれ、嫌がることをすると「現実主義」「強硬外交」というまったく異なるレッテルが貼られていくこととなる。とりわけ、年の変わり目から起こり始めたコロナ禍は、その発生源をめぐって両国がろくに証拠も示さないまま相手国を糾弾する状況が続いており、元来は貿易摩擦から始まった両国の対立が政治的側面に及んでいることがわかる。これについても、国際会議等で言及している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に推移しているが、米中の対立が台湾や香港問題を契機に現れるため、台湾はともかく、香港への渡航が困難なときが生じている。 また、グローバル化によって「公共善(public goods)」に加えて、「公共悪(public bads)」も蔓延することが、コロナ禍を境に明らかになってきた。プラスの外部性が、国際相互依存の進展によってもたらされていたが、同時にコロナ禍は、外部性にはプラスの側面だけでなく、マイナスの側面があることを知らせた。しかも、「公共悪」だから国際協調が起こるわけではないことが明らかとなった。 状況が次第に回復することを願いつつ、日本国内での文献調査に努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様に、米中両国とそれに関係ある諸国でのインタビュー、資料収集を通じて研究を進めていきたいトランプ政権による関税政策は今後も継続されるだろうが、それ自体が本来アメリカの利益に適っているかどうかも含めて、今後も資料の収集と、現状分析に焦点を当てていきたい。 昨年と同様に、ある程度は米中の歴史的側面にも注意を払う必要があろう。米ソ冷戦の時代、両国の貿易は年間20億ドル程度であったが、今日の米中貿易はこの貿易量を一日で片付けてしまう。その意味で、冷戦時代の米ソ関係と、今日の米中関係は、根本的に異なる。経済的に相互依存は継続している。しかし、その貿易自体が円滑に機能しなくなり、(本当は必要ないかもしれないが)米中両国間に摩擦を引き起こしているのが現状である。 また、単純に貿易量だけでなく、本来なら知的財産権をはじめとする米中両国間の「スタンダード」をめぐる競争が究極的には摩擦の対象となってくるかもしれない。その意味で「一番であること」が経済分野においては重要であり、「経済の政治化」現象が起こっている。二年目以降は、こういった「政治的側面」にも着目したいと思っている。 また、今回のコロナ禍で米中関係はいっそう険悪となった。トランプ政権内部も一枚岩ではなく、異なる意見があちこちから聞こえている。引き続き海外の研究者・政策当事者との意見交換、国際会議への参加を主に活動を展開し、論文や著作をまとめることを中心として研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
別資金の消化を優先したため。
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