研究課題/領域番号 |
18K01493
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
小尾 美千代 南山大学, 総合政策学部, 教授 (70316149)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 気候変動 / カーボンニュートラル / 機関投資家 / TCFD / 国防総省 / 米軍 / エネルギー安全保障 / 脱炭素化 |
研究実績の概要 |
本研究は、気候変動への重要な対応策である再生可能エネルギーの導入拡大に注目し、二酸化炭素を始めとする温室効果ガス排出大国のアメリカにおける再生可能エネルギー市場の社会的構築の解明を目的としている。分析にあたっては、州政府・主要都市などの政府系アクター、多国籍企業や大手金融機関などの民間経済アクター、米軍を含めた国防総省を中心とする軍事アクターの3つを主な分析対象としている。 2022年度は、昨年度に引き続き機関投資家を中心とする金融部門と、米軍を含めた国防総省に焦点を当てた研究を行った。 金融部門に関しては、世界の機関投資家に環境、社会問題、企業ガバナンスを考慮したESG投資を推奨する国連責任投資原則(PRI)、ESG投資に関する情報開示制度のCDP、企業を対象とする気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などが設立されている。こうした中で、2050年までのカーボン・ニュートラル実現を目標とする機関投資家によるグローバルなイニシアチブが設立され、参加メンバーも増加傾向にある。アメリカ政府は、トランプ政権期にパリ協定からの離脱を表明し、現在のバイデン大統領が復帰を果たすなど外交面では変化が大きいが、国内では、それまで脱炭素化の障壁と批判されてきた世界最大の運用会社であるブラックロックが2050年までのカーボン・ニュートラルを掲げるイニシアチブに参加したことから、その意義についても研究した。 また、国防総省はすべての連邦政府機関による温室効果ガス排出量の75%を占めているが、政権による対外的な気候変動政策の変動とは対照的に、国防総省の温室効果ガス排出量は2010年から2020年の間に3分の1以上減少しており、米軍としてカーボン・ニュートラル(排出量を実質ゼロにするネット・ゼロ)を推進している。その背景として、エネルギーを中心とする安全保障戦略の観点から研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度についても新型コロナウイルスの関係で、海外出張の見通しが立ちにくい状況にあったことから、現地調査ができなかったこともあり、資料収集に手間取ってしまった。また、夏と春の長期休暇に論文をまとめる予定であったが、実家に住む親の介護と自身の健康上の理由により研究に充てる時間が制約されてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も研究計画に沿って、州政府や主要都市の準国家アクター、多国籍企業や大手金融機関などの民間アクター、国防総省および米軍の3つのアクターを主な分析対象として研究を進めていく。 アメリカでは気候変動政策に消極的であった共和党のトランプ政権に代わって、2021年からは積極的な気候変動政策を前面に打ち出した民主党のバイデン政権が政権を担い、2022年8月には3690億ドルの気候対策を含むインフレ抑制法(IRA)が成立し、脱炭素化に向けた投資の拡大が期待されている。他方で、ロシアのウクライナ軍事侵攻によるエネルギー情勢が大きく変化している中、バイデン政権は2023年3月にアラスカ州の石油・天然ガス開発プロジェクトを承認したため、環境保護団体は猛反発している。エネルギーの安定的な供給確保とエネルギーの脱炭素化をどのように両立していくのか、連邦政府だけではなく州政府の政策も含めて分析していきたい。 また、2022年度は論文として公刊するまでには至らなかったものの、国防総省による再生可能エネルギー導入について、石油危機が発生した1970年代以降から現在に至るまでの対応について研究を行ってきた。今後も、エネルギー安全保障に対する認識を中心に分析を進め、研究成果を公表していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、参加を予定していたアメリカ国際関係学会やアメリカ政治学会が新型コロナウイルスの影響で実現できず、それに合わせて予定していた資料収集や、英文チェックのための謝金についても支出できなかったことから、使用額が予定を下回った。 2023年度については確実に参加できる国内での学会やオンライン開催の学会での報告に加えて、論文の公刊について積極的に対応していきたい。
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