申請時、1930年前後の国際博覧会制度成立期に焦点を当て、当時の外交交渉や識者の議論をより広い国際政治状況のなかに位置づけ直すことを目的とした本研究は、その枠を超えて発展し、当該時期を中心に170年にわたる国際博覧会の通史を国際関係史として描き出すものとなった。博覧会研究の角度からも、また、博覧会史をレンズとして国際関係史に新たな光を当てるという観点においても、研究の前進に大きく貢献するところがあったと考えている。そのための史料調査や成果論文の執筆は第2年度までにほぼ終えていたが、最終年度には、本研究の総まとめとして、二様の重要な活動に従事した。 一つは、上記の論文を軸とする論集『万博学―万国博覧会という、世界を把握する方法』(佐野真由子編、思文閣出版、計32論考、556ページ)の刊行である。その編集プロセスは、報告者が本研究を通じて確立した「世界を把握する方法としての万国博覧会」という視座を、広範な領域の研究者らと学際的な議論を重ねることを通じて確認し、さらに更新していく作業であった。 いま一つは、同書の刊行記念という形をとった「シンポジウム『万博学』」(2020年12月12-13日、於・京都大学百周年時計台記念館)の企画立案~開催である。丸2日間にわたり、同書のほぼ全論考の発表と、それに基づく討論を行った。折からのコロナ禍によってオンライン併用開催としたことが功を奏し、世界各国から各日約200名の参加を得て成果を共有することができた。 併せて、この研究の延長上に、中国における博覧会史研究の拠点をなす華中師範大学中国近代史研究所との合同研究集会が実現し、また、同研究所を中心に連携する数十人の中国内研究者らが、上記シンポジウムにまとまって参加するなど、研究交流の特筆すべき進展があったことに触れておきたい。
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