令和2年度においては、福祉国家の問題を基礎理論に基づいて発展させながら、新たに発生した新型コロナウイルスのパンデミックを踏まえつつ応用的展開を行った。主に、研究会を開催しながら研究成果をまとめた。その中での意見交換や研究交流を通じて、分析をより成熟したものにした。特に、社会的選択理論、不平等の経済学、政治思想、政治学者、災害研究者などの分野の研究者と交流を行い、研究に関連したさまざまな情報を得ながら、研究をまとめた。 強調すべき点として、社会的選択理論、厚生経済学、福祉政策の既存研究の理論的整理のもとに、調査の専門家と実証研究の専門家と緊密に研究会を重ねることにより、厚生経済学の実証分析や実践的応用を進めたことである。こうしたうえで、公共財理論を基礎とした、ソーシャルディスタンスの公共的性質を明らかにし、その厚生的含意を明らかにした。インフォデミックの問題を検討し、不確実性の存在がパンデミックのもとで厚生に与える影響を実証的側面から検討した。前年度に続いて、共通部分=合併アプローチを進め、その実用化に向けた実践的応用を行った。さらに、ロールズを代表とする現代の政治哲学が、福祉国家へ与える含意を検討するなか、言語分析と制度がどのようなつながりを持つかをロールズの初期文献から示した。こうした思想的考察を前提に、社会的選択理論の枠組みを用いて、集団的決定の人口の問題を明らかにした。特に、特定の決定力を持つ集団の存在可能性を確率測度の枠組みより論じた。こうしたなか、将来世代の状況まで考えることが可能な「人口の多い社会」における社会決定問題の特徴づけを行なった。書き上げた論文は修正を重ねて、海外の査読誌に出版した。
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