研究課題/領域番号 |
18K01504
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
服部 正純 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 特任教授 (60768349)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Taylor rule / 最適金融政策 / 非伝統的金融政策 / イールドカーブ |
研究実績の概要 |
本研究は、非伝統的金融政策がイールドカーブの形状に働き掛ける政策を行っている現実を受け、短期金利の情報だけでなくイールドカーブ全体の形状の情報を利用した金融政策スタンスの評価手法の提案を目指している。 2018年度中には、まず、将来の特定時点でのTaylor rule政策金利の予測値の推計手法を確立できた。Taylor rule政策金利の値は、金融政策スタンスとしては中立的な金融政策スタンスとなる短期金利と考えられている。このTaylor rule政策金利の推計には各時点での実質GDP成長率とインフレ率に関する情報が必要であるが、民間エコノミストへのサーベイのデータを利用することで可能となった。 Taylor rule政策金利と金融市場で取引の対象となる短期金利との乖離の大きさが金融政策スタンスの引き締め・緩和度合いを示すことになるが、金融市場で取引されているOISという短期金利商品の将来時点に関する先物の値と上述の将来時点でのTaylor rule政策金利の比較が可能である。両者の乖離幅を説明変数として時系列分析を行ったところ、米国経済において、将来の同乖離幅の変化が現時点での実体経済の変化を発生させるとの分析結果を得た。例えば、5年先のTaylor rule政策金利とOIS先物の値の乖離幅が金融緩和の方向に変化すると現時点での実質GDP成長率が高まるといったものである。この分析結果については、将来時点での金融緩和の見通しが現時点での支出拡大を促すという波及プロセスによるといった中間的な評価をしているが、引き続き分析を続ける。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度中にはサーベイデータを利用した将来時点でのTaylor rule政策金利の推計を研究の主眼としていた。この目標はほぼ達成された。また、将来時点でのTaylor rule政策金利の推計値を利用して金融政策スタンスを評価するためにTaylor rule政策金利との比較対象とするものについては、研究を進める中でOISの先物の値が良いことに気づくことができた。これを受けて可能となったTaylor rule政策金利とOIS先物値の乖離幅が米国の実体経済に与える影響の分析は、当初の予想通りの結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
Taylor rule政策金利とイールドカーブのタームプレミアムとの関係を分析する予定である。現在までのところ、将来時点でのTaylor rule政策金利と金融市場で取引されている短期金利商品(OIS先物)の乖離幅の意味や、それが実体経済に与える効果については研究を進捗させることができている。イールドカーブはタームプレミアムの増減によっても変化することから、タームプレミアムの形成についての理解を深めることが望ましい。こうした考えから、将来時点での金融政策スタンスに関する見通しが、タームプレミアムにどのような影響を与えるか分析していく。 次に、Taylor rule政策金利の推計に利用するサーベイデータをより頻度が高いものに変えることで分析を緻密化したい。現在、半年毎に入手可能となるサーベイデータを利用しているが、これを四半期毎に入手可能となるデータに変える予定である。 そして、米国経済を対象とした分析が完成した後には、他国の分析にも同じ手法を応用するほか、国際間での金融政策スタンスの連関の有無の確認などを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
契約を結び利用することを考えていたサーベイデータの契約料が、契約交渉の段階において予想よりもはるかに高額であることが判明した。これは研究計画段階の事前見積時点でデータ提供業者からの説明が無かった部分の影響によるものである。これを受けて、2018年度中の研究作業では、当初利用を想定していたサーベイデータを代替する情報を利用して進めた。次年度使用額として繰り越した資金を利用することで、2019年度と2020年度中は当初利用を想定していたサーベイデータを契約することができる。このように、次年度使用額の発生は、最も望ましいデータの利用を可能とするために意図的に行ったものである。
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