研究課題/領域番号 |
18K01525
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
宮川 敏治 甲南大学, 経済学部, 教授 (30313919)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Wage bargaining / Labor union / Strategic alliance / Cooperative investments / Incomplete information / Transparency / Substitutive goods / Complement goods |
研究実績の概要 |
(1)財の売買に伴う価格交渉の問題を、労働市場での賃金交渉に置き換え、労働者の賃金の個別交渉と団体交渉という交渉形態の選択の問題を提携の形成問題に捉え直して考察を行った清滝ふみ氏との共同研究(Unified or Separate Wage bargaining without Commitments to form Coalitions)は、現在査読付きの学術雑誌に投稿し、査読者からのコメントを反映しながら改訂し、投稿を続けているが、まだ、掲載を許可される状況には至っていない。改訂の中で提携の外部性の存在によって賃金交渉に遅れが生じるケースなども追加したりして、内容の改善は行った。 (2)企業提携の文脈で2つのサプライヤーが購入者との提携の問題を考える際に、3社での提携を所与とするのではなく、2社での個別提携の可能性を導入することで、サプライヤーの研究開発投資の誘因を与えることができることを示した清滝ふみ氏との共同研究(The Option of Sequential Alliances for Cooperative Investments)は、いくつかのサプライヤーの研究開発投資に関する事例(アップルの環境対応サプライヤー契約、トヨタ、ダイソーとの提携、自動運転自動車開発での地図会社と自動車会社の提携)を追加し、大幅に改訂を行い、現在査読付き学術雑誌に投稿中である。 (3)売り手2人、買い手1人の財の売買交渉で、買い手2人から財を購入し、合成財を生産する状況で、単一の財の価値は公的情報で、合成財の価値が買い手の私的情報である状況を考察した不完備情報交渉ゲームの研究は、交渉において1人の売り手との売買交渉の結果が見えるかみえないかを注目して研究を続けてきた。売買交渉が見えないケースの分析に苦戦していたが、理論モデルが完成し、現在、分析を進めている途中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
売り手が2人で買い手が1人の売買交渉で、価格交渉がプレイヤー間で見えない状況で、売り手の財が補完的か代替的かが買い手の私的情報であるときの不完備情報交渉ゲームの研究が、分析可能なモデルの構築がなかなかできず、研究が進捗しない状況が続いた。モデルを構築した後も、完全ベイジアン均衡点の構成に試行錯誤を繰り返して、多くの時間を費やしてしまった。完成まであと少しであるが、研究成果としてまとめる段階に至っていない。その意味で、研究は遅れている。いくつかの完全ベイジアン均衡点の構築に成功したが、あと一つの最も重要な自明でない完全ベイジアン均衡点の構築がまだ完成していない。これが完成すれば、他の研究者に研究内容を説明し、議論することが可能となる。議論ができる状態まで到達できなかったことも、研究が遅れた大きな理由と言える。
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今後の研究の推進方策 |
売り手が2人で買い手が1人の不完備情報の非協力交渉ゲームの理論モデルの研究は、定理の証明の方針も定まり、候補として考えた完全ベイジアン均衡点が均衡の条件を満たすものかをチェックする段階までやってきた。できるだけ早い時期に証明を完成させ、研究会等で発表できるようにしたいと考えている。 また、二人のプレイヤーの協力の価値についてプレイヤー間で間違った認知や見解の相違が存在する状況での利得配分交渉の研究を昨年度から開始した。ベイズ学習理論や情報獲得行動の近年の理論的研究の進展を交渉ゲーム理論に取り入れる研究であるが、大阪経済大学の花登氏と共同研究を行うことになり、昨年度中に大きく研究が進展した。いくつかの結果を紹介できる段階まで来ているので、研究結果を国内外の研究会で報告したいと考えている。 勤務校でもようやくコロナ前と同様のかたちで出張ができる状況になったので、今年度は国内外の研究会で報告し、ゲーム理論の研究者と議論をすることでさらに研究を進展させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、国内外の出張が思うようにできない状況が続いていたことと研究の遅延も伴い、学会に出席したり、研究会で成果を報告することができず、予定していた旅費で研究費を使用することができなかった。昨年度は、方針を切り替え、オンライン研究会やオンラインの学会に参加するためのノートPCや音声映像機器への支出、および、論文の英文校正や学術雑誌への投稿料で利用することにした。しかし、数年間使用できずにいた助成金をすべて利用するには至らず、年度末を迎えようとしていた。その段階で、もう一年延期を申請できることを大学の事務局からの通知で知り、助成金を残して、当初予定していた旅費で利用することが望ましいと考えたため、次年度使用額が生じることになった。 次年度は、国内外への研究会や学会の出席のための旅費として助成金を使用したいと考えている。
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