研究課題/領域番号 |
18K01527
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 努 北海道大学, 経済学研究院, 教授 (40281779)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウェルビイング / 幸福 / 福祉国家 / 自由 / 自由主義 |
研究実績の概要 |
2020年度は、福祉政策を支える「ウェルビイング」概念の新たな理念化とその指標化をめぐって、以下のような研究実践を得た。まず単著として、これまでの私の研究のいわば集大成となる成果を刊行した(橋本努『自由原理 来るべき福祉国家の理念』岩波書店、2021年2月17日刊)。本書には、これまで発表した諸論文を収録したほか、書下ろしとして、「福祉国家の根本問題」を収めた。これは、現在のウェルビイングの問題が、福祉国家の根本問題として位置づけられることを思想史的に整理して提示したものである。 また今年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大とともに、私たちの生活スタイルが改めて問われた一年であったが、これを受けて、講演「新型コロナウイルスとナッジ政策 人の行動を促す仕掛け」をUHB大学一般教養講座(公開講座)の一部として行った。このナッジ政策をめぐっては、この他に、電子書籍の共著、那須耕介/橋本努/吉良貴之/瑞慶山広大『ナッジ! したいですか? されたいですか? される側の感情、する側の勘定』勁草書房、および、紙媒体の共編著、那須耕介・橋本努編『ナッジ!? 自由でおせっかいなリバタリアン・パターナリズム』勁草書房を、それぞれ刊行した。学会報告としては、経済社会学会(第56回全国大会)にて、「消費社会はどこへ向かっているのか──欲望消費社会を超えて」と題する報告を行った。この他、招待論文として、「資本主義の精神とは何か――ウェーバー「プロ倫」の読み方」を雑誌『現代思想』(2020年12月号)に寄せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、「ウェルビイングの概念が、原理的・政策的な次元においてどのような規範的含意をもつのか」という問いを中心的なものとして立てた。すでにさまざまな成果を得てきたが、今年度は、これまで『思想』に連載した諸論文を含めて、単著を刊行するという成果を得た。とりわけ第一章では、福祉国家の根本問題とは何かついて、その全体像を描くという成果を得た。 福祉国家は、これを思想的に論じようとすると、いったい何がその中核にあるのか、見定めることが難しい。福祉国家の全体像を捉えようとすると、雑多な思想や実践の寄せ集めに見えてしまうことがしばしばである。トマス・アクィナス、J・ロック、K・マルクス、ウェッブ夫妻、J・ハーバーマス、G・ミュルダール、等々、さまざまな思想家たちが福祉国家の理念の形成に貢献してきたとはいえ、こうした思想家たちの貢献は、福祉国家の全体像のなかでどのように位置づけられるのかについて、福祉国家の思想理念を通史として描いた研究がない。福祉国家は私たちの現実でありながら、これを総体として把握する試みがこれまでなかった。本成果では、福祉国家の諸思想を体系的に整理し、福祉国家思想の理論を提示している。大まかに述べると、「非包摂/倫理的包摂と排除/社会的包摂と排除」の区別、および「非動因(安全確保)/経済的動員/生命の動員」の区別を、それぞれ組み合わせることによって得られる九つのカテゴリーを通じて、福祉国家を構成する諸価値を、それぞれの価値が抱える根本問題とともに把握している。これは同時に、福祉国家の展開が自由の発展史であることを叙述するものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、課題に掲げた三つの目的、すなわち、(a)学説史的検討と概念分析、(b)福祉政策を体系的に導く規範理論の構築、(c)諸指標の検討と新たな指標の提案、に沿って、それぞれのテーマをさらに探求していく。とりわけ、「幸福度指標」とその背後に想定しうる福祉国家の新たな原理論が、これまでの福祉国家の諸原理(正当化根拠)とどのように違うのか、あるいはどの点で新しいのか、についても明らかにし、福祉国家が今後取り組むべき新たな政策課題について明らかにしたい。この点については、この一年間で、調査研究に進展が見られたが、まだ成果を刊行するには至っていない。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、さまざまな面で研究資金の使用に制約を受けた。次年度は、その支出計画を実行する予定である。
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