前年度までに、モデル不確実性を考慮した景気循環の厚生費用の解析的な計算方法を示し、さらに、世界銀行のWorld Development Indicatorsから作成したデータセットを用いて、先進国、発展途上国、および新興国を含む22カ国に対して景気循環の厚生費用を計算した。22カ国を対象とした分析において、先進国、発展途上国、新興国の間でモデル不確実性の程度に有意な差が見られ、その結果として厚生費用に大きな差が生じている可能性が明らかとなった。本年度は、以上の結果をより詳細に検討するために、以下のことを行った。第1に、先進国、発展途上国、新興国の間の厚生費用の差が特定のサンプルに依存していないかを検証するため、分析対象を64カ国まで増やし、モデル不確実性を考慮した景気循環の厚生費用の再計算を行った。第2に、上記の計算によって得られた景気循環の厚生費用をモデル不確実性に依存する部分と依存しない部分に分解した結果をもとに、先進国、発展途上国、新興国の3つのグループ間の違いとその特徴を検討した。第3に、景気循環に影響する要因として国際経済学の文献においてしばしば議論される貿易開放度と国の規模といった2つの要因をコントロールした上で、3つのグループ間の差をもたらす主な要因は何かを検討した。第4に、得られた結果の解釈を検討するために、主に新興国の景気循環に関する先行研究の文献調査を行った。分析の結果、経済の発展度が高まるにつれて、モデル不確実性の厚生費用が低下し、それに伴い景気循環の厚生費用は低下する傾向があることが明らかとなった。また、モデル不確実性を考慮した場合、景気循環の厚生費用は従来指摘されていたものよりも大きく、かつ発展途上国や新興国の厚生費用が大きい主な原因はモデル不確実性にあることが分かった。これらはいずれも、当該分野における新たな知見と考えられる。
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