本研究では、モーメント制約によって定式化されるモデルのベイズ推定の方法を考察した。モーメント制約モデルは観測値の分布について関数形の仮定を置かないセミパラメトリックモデルであり、古典的なパラメトリックなベイズ法を用いて推定を行うことができない。そこで、二つの代替的なベイズ推定の方法を提案するとともに、その漸近的な性質を調べた。 一つ目の方法はBayesian empirical likelihood(BEL)と呼ばれるもので、モーメント制約モデルの経験尤度を疑似的な尤度として用いて、パラメトリックなベイズ推定を行うものである。BELに関する研究は既に数多く存在するが、本研究では、BELによって得られる事後分布が、モーメント制約モデルのleast favorable submodelの尤度を用いて得られる事後分布と漸近的に同等となることを明らかにした。つまり、未知のパラメトリックな尤度関数を使った場合と漸近的に同等な事後分布が得られる。 二つ目の方法はセミパラメトリックなベイズ推定法である。この方法を用いるために、モーメント制約モデルを興味のある有限次元パラメータと無限次元の局外パラメータによってインデックスされた分布の形で書き換える方法を提案した。有限次元パラメータの事後分布は、無限次元局外パラメータに関して積分をとることで得られる。主たる結果として、セミパラメトリックなベイズ法から得られる有限次元パラメータの事後分布は、BELから得られる事後分布と漸近的に同等であることを明らかにした。 経験尤度は真の尤度ではないため、BELによって得られる事後分布が妥当な解釈が可能であるものかどうかは自明ではない。本研究の成果はBELに一定の理論的な正当性を与えるものである。
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