本研究は、①国勢調査の調査票情報の独自集計等による分析と②公的統計と行政情報とをリンクした統合データの作成及びそれを用いた分析によって人口移動に関する新たな知見の獲得を目的とする。 ①に関しては、居住期間についての既存集計は、期間5区分に「出生時から」という異次元の表章項目が混在する6区分によって結果表章されている。その結果、既存集計の期間5区分は常住者の居住期間に関して実態からかけ離れた誤った分布情報を提供している可能性がある。そこで、調査票情報を独自集計し「出生時から」の常住者を5区分の居住期間に再配分し、地域の常住人口の居住期間に関する正確な分布情報を算出した。 得られた解析結果を精査したところ、男女、続柄、配偶関係等の人口属性に関しては既存集計が与える分布との間に顕著な乖離が見られた反面、世帯人員、住居の種類等では両者の間には殆ど乖離は認められなかった。このように人口・世帯属性間で分布形状の乖離度に大きな差異があることは、公的統計として提供されている既存集計に改善の余地があることを示唆している。 ②に関しては、すでに昨年度の研究で国勢調査の調査票情報と行政情報(住民基本台帳登録)を用いて、共通変数が限られている大量データセット同士の個体ベースでのデータマッチングの方法論の開発を行った。今年度は先に構築した統合データを用いて居住期間等に関する分析作業に取り組んだ。さらにそれに並行してマッチング手法の拡張にも取り組んだ。具体的には国勢調査の調査票情報の利用延長申請を行い、平成22年と27年の調査票情報に調査区・基本単位区という空間情報を用いたマッチング手法を適用し縦断面データセットの構築並びにその精度検証を行った。今回開発したマッチングの方法は、IDナンバーなど直接的な個体識別子を持たない異時点情報間のリンケージに関して新たな方法論を提案するものである。
|