研究実績の概要 |
当該年度では, 事例ベース意思決定理論 (Gilboa and Schmeidler, 1995, 2001) に基礎を置いた Gilboa et al. (2006) を端緒とする経験類似度の枠組みに着目し, Golosnoy et al. (2014) の提案した経験類似度に基づく時系列モデルを拡張し, ボラティリティ予測の実証分析を検証した. 実証研究では, 2015 年 9 月 24 日から 2017 年 12 月 29 日までの東京証券取引所 1 部上場 65 銘柄の高頻度データを用いている. これら 65 銘柄は, 2017 年 8 月現在での日経平均採用銘柄の中で特に取引数の多かった株式である. 2015 年 9 月 24 日からのデータを用いた理由は, 東京証券取引所の株券等の立会取引に係る売買システムである arrowhead のリニューアルが行われ, ティックデータの約定値・気配値の時刻が 100 マイクロ秒単位に詳細化されたことにある. ボラティリティの代理変数としての実現測度には, 新たに多変量実現カーネル (Multivariate Realized Kernel) を用い, 予測比較に用いられたモデルは, 先行研究で提案されたモデルを含む 15 種類に及ぶ. モデルの予測力比較については, 4 つの誤差関数によるモデル信頼集合 (MCS) を用いることにより, 複数の銘柄と推定予測期間におけるモデルの予測力を順位付けし, 最良モデルの累積頻度を分析した. 分析結果としては, インサンプルでは ES1k が比較的良好な結果になったが, アウトオブサンプルではどのモデルも大きな差が見られなかった. アウトオブサンプルで顕著な結果が得られなかったことは今後の課題としたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の現在までの進捗状況は下記の通りである. 1. 上述の通り,事例ベース意思決定理論 (Gilboa and Schmeidler, 1995, 2001) に基礎を置いた Gilboa et al. (2006) を端緒とする経験類似度の枠組みに着目し,Golosnoy et al. (2014) の提案した経験類似度に基づく時系列モデルを拡張し, ボラティリティ予測の実証分析を検証した. 2. 本研究を進める上で最も大切となる高頻度金融データ, そしてその分析に必要となるコンピュータ等の備品を購入し研究環境を整備した. 3. 関連する文献検索とそれらの解釈および分析を行った. 来年度は引き続き先行研究を調査し,実データによる分析を進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
まず, 当初の計画通り,Lieberman (2012) および Lieberman and Phillips (2014) に基づき, 時間と共に変化する類似度関数を持つ経験類似度ボラティリティモデルを構築する. さらに, Lieberman (2017) に基づく順序付き質的データモデルについても, Hausman et al (1992) による分析を視野に入れ,その金融市場分析への適用可能性を考察し, モデル構築および実際の金融データを用いた実証研究を試みる. また, 金融市場における価格変化と取引量の関係に関する分析と関連し, Tauchen and Pitts (1983) により明らかにされた混合分布仮説 (mixture of distribution hypothesis, MDH) による価格変化と取引量の正の相関性を取り入れるべく, ボラティリティ, ボリューム, デュレーションを説明変数にした経験類似度モデルの構築を試みる.
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