研究課題/領域番号 |
18K01555
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研究機関 | 広島経済大学 |
研究代表者 |
前川 功一 広島経済大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (20033748)
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研究分担者 |
得津 康義 広島経済大学, 経済学部, 教授 (30412282)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 構造VARモデル / 独立成分分析 / 共和分分析 / 非正規攪乱項 / 因果序列の探索 / 株式取引需要関数 / 高頻度データ / 実現ボラティリティ |
研究実績の概要 |
研究代表者前川は、機会学習で用いられる誤差項に非正規性を仮定する独立成分分析(ICA)を計量経済学における標準的手法である構造的多変量自己回帰モデル(SVAR)に対して応用する研究を行っている。この二つの融合をICA-SVARモデルと呼ぶことにする。このモデルに関してこれまでは経済変数間に因果序列が存在するという前提で、因果序列を検出する理論的研究及び日本の非伝統的金融緩和政策の効果分析を行ってきた。30年度には因果序列を前提にしないICA-SVARモデルの研究を行った。その際、非定常な変数が含まれている(共和分関係を含む)場合における長期的及び短期的制約に関する推定と検定の問題を、主としてモンテカルロ実験を用いて研究した。その結果、推定・検定は概ね正しく行われることが示された。また非正規性、標本サイズなどが統計的推測に及ぼす影響も示された。SVARの実証分析への適用に関して、証券市場における株式の取引需要関数の推定を行った。従来の取引需要関数は誤差項に正規分布を仮定した重回帰分析や同時方程式で推定を行われていた。ファイナンス分野では非正規分布がしばしば観察されており、誤差項に正規分布より裾の厚いStudent-t分布を仮定したSVARを最尤法によって推定した。推定の結果、取引需要は同時点間では実現ボラティリティは負の影響、その他の変数(為替レートの収益率、VIX、日次収益率)は正の影響を受け、1期前の変数に関しては、為替レートの収益率および実現ボラティリティが負の影響を与え、それ以外の変数は正の影響を与えることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
5に述べたICA-SVARモデルに関する以下の事項に関する研究を進めている。 (1)取り上げる変数間に因果序列が存在するという仮定を置かずにこのモデルの推定・検定のパフォーマンスをモンテカルロ実験で示した。その結果標本数が大きいときは中心極限定理が働き従来の漸近的正規性が成立するが、そうでないときは当然非正規性の影響を受ける。その影響をモンテカルロ実験で示した。この実験に当たっては可能な限り現実に近いDGP(データ発生プロセス)を用いることが望ましいので、この分野の先駆的実証研究のモデル(King,Plosser,Stock,Watson(1991):”Stochastic trends and economic fluctuations,” American Econonic Review, 81,819-840.)を用いた。特に検定に関しては,尤度比検定は良好なパフォーマンスを示すがワルド検定は非常にパフォーマンスが悪いことが判明した。また共和分関係にある非定常変数が含まれる場合についても様々な特定化の下でモンテカルロ実験を行い、応用注意すべき数々の問題点を検出した。
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今後の研究の推進方策 |
5に述べたICA-SVARモデルのパフォーマンスをモンテカルロ実験でさらに検討し、その結果を踏まえてこのモデルを使って現実のマクロ経済データ及び高頻度ファイナンスデータ分析を行いたいと考えている。また30年度に得られた非定常変数を含むICA-SVARモデルに関するモンテカルロ実験結果を統計理論的に説明するための理論的分析も必要である。このような方針で研究を進めるためには、(1)非正規分布を前提にした非定常過程に関する理論的サーベイ、(2)現実の問題をモデル化する、(3)そのためにこれまでに提案された経済及びファイナンスモデルのサーベイを行う、(4)モデル推定に必要なデータの収集・整理を行う、(5)研究成果を英文論文にまとめ内外の学会で報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
31年3月末にシンガポールにおける国際学会に出席し報告する予定であったが準備が間に合わなかったので、それに予定していた出張旅費が使用できなかったため次年度使用が生じた。その報告予定であった研究は、令和元年6月に台湾で開催される別の国際学会において報告することになっているのでその学会への出張旅費に充当する。
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