研究課題/領域番号 |
18K01560
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 秀夫 東北大学, 経済学研究科, 名誉教授 (40133897)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ケインズ的失業 / 連結財 / 多数国多数財 / 交易条件 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、完全雇用を前提とすることなく、また、労働市場の不完全性を仮定することなく、一般的な多数国多数財貿易モデルを構築することである。2018年度の研究では、中間財貿易を捨象するというレベルでの基本的な骨格がほぼ得られた。すなわち、各国の生産技術と労働賦存量、各国各財の有効需要量が与えられれば、国際分業のパターン、各国賃金率、各財の価格、各国の雇用量が決定される。ただし、それらは一義的であるとは限らず、複数均衡となる可能性がある、ということである。 ところで、本研究課題の重要キーワードの一つは連結財(2国以上の国で共通に生産され貿易される財)である。複数の連結財によってすべての国が連結されているときの国際分業パターンを連結型と呼び、一ヶ所以上で連結が途切れているパターン(その極端なケースが連結財の存在しない完全特化型)をリンボー型と呼ぶが、連結型では、完全雇用を前提とするケースと同様に、需要変化に際して価格変化なき数量調整が行われること、また、国内需要の増加が国内雇用を増加させること、その国内需要増加が自国で生産しない財に対するそれであっても国内雇用を増加させること、そして、自国生産財に対する外国の需要増加は自国の雇用を増やさないこと、などが明らかとなった。 この過程でもう一つの興味深い帰結が得られた。完全雇用を前提とする場合と不完全雇用を前提とする場合とでは、各国における需要の増減が要素交易条件および商品交易条件に与える影響が対照的なものとなるのである。分かり易く、2国2財の完全特化型分業ケースでいうと、完全雇用想定の下では、相手国生産財に対する自国の需要増加は自国の要素および商品交易条件を悪化させる(通常の貿易モデルの常識)が、不完全雇用想定の下では、まったく逆となる。 上述の知見は、従来の貿易理論が導くものとは異なるものであり、重要な意義を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(2018年度)は、研究課題に関連する研究会や学会に参加し、関連する研究動向を掌握しながら、研究を進めてきた。その結果、研究会で報告できる水準にまで自己の見解をまとめることができた。2年目(2019年度)の4月には国際価値論研究会(立教大学池袋キャンパス)において「グレアム型貿易モデルの諸論点」という論題で報告する予定であり、また、5月には制度的経済動学セミナー(京都大学吉田キャンパス)において「ケインズ的失業を伴うリカーディアン貿易モデル」という論題で報告する予定である。さらに、これらの報告の基盤となる英文論文の草稿をまとめており、現在推敲段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べた、2本の研究報告に関して得られるであろう有益なコメントを参照しつつ、自己の見解をさらに彫琢し、英文論文としてまとめ上げることを目指す。また、現在推敲中の論文草稿をできるだけ早期に国際ジャーナルに投稿し、研究成果を海外に発信する予定である。 本研究の着想は F. D. グレアムの国際価値論から得ているが、グレアム以前あるいは同時代に「連結財」に言及した研究者たちが多数いたにもかかわらず、それの核心的意義が理解されなかったのはなぜなのか、を整理したいと考えている。また、これまでのモデルでは貿易の均衡を前提としているが、これを緩めたときにどうのような帰結が得られるのか、これを確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は当該年度所要額の1割以下であり、次年度には、この持ち越し分を含めて予定通りの使用がなされる見込みである。
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