D.リカードの比較生産費説以来、いくつもの貿易モデルが開発されてきたが、3つの大きな欠落があった。第1に、複数の国で生産され貿易される財(日米独の自動車、伯米豪の牛肉など)の無視。第2に、多くの貿易モデルは完全雇用を前提とするか、労働市場の不完全性を想定し、失業の原因をその不完全性に帰す。つまり、有効需要不足による失業が貿易理論の中に取り入れられることはほとんどなかった。第3に、現実的で一般性のあるかたちで中間財貿易を取り扱う貿易モデルがほとんど存在しなかった。 本研究はこのうち第1と第2の欠落を埋め、各国の生産技術・労働量・需要構造が与えられたとき、国際分業パターン・財の相対価格・各国賃金率・各国生産量・雇用量が決定されるという新しい貿易モデルを提示することを目的とした。さらに、研究内容とは別個のことになるが、日本発の貿易モデルとしての認知を得るべく、研究成果を英文で執筆し国際ジャーナルに投稿・掲載することを副次的目的に掲げた。 最終年度においては、ケインズ的失業を伴う多数国多数財貿易モデルを構築し、その成果をまとめて英文ジャーナルに投稿した。さらに、中間財貿易モデルの研究を開始し、その成果を次年度にまとめる予定である。 結果的に、4本の英文論文を執筆・投稿し、うち2本が受理された(2021年5月および6月発行の巻号にて公刊される予定)。残りの2本は改訂・再提出を求められ、現在改訂中である。研究期間全体を通してみれば、所期の目的はほぼ達成されたといえる。
|