研究課題/領域番号 |
18K01561
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 亮 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (30516000)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 災害 / 交通インフラ / 資金調達 / リスク回避 |
研究実績の概要 |
2018年度は災害リスクの下での政府の交通インフラ投資問題に関する、以下の二本の研究を遂行した。 第一に、災害による交通インフラの途絶リスクが存在するもとで、2種類の代替的インフラの組み合わせからなる交通ネットワークへの最適投資について理論的に検討した。その結果、リスク回避選好を考慮した社会的厚生関数の下では、社会的最適投資が混雑料金収入と一致するというcost recovery theoremがネットワーク全体で成立せず、特に災害時にバックアップ機能を提供する安定的なインフラは、料金収入による独立採算の維持が困難であることが示された。この結論に基づき、いくつかの簡単な数値例や政策的な応用例を追加したのち、論文にまとめ、国際的査読誌に論文を投稿したところ、受理されて出版に至っている。 第二に、独立な災害リスクに直面する隣接した2地域による、分権的意思決定の下で代替的なインフラの整備・供給について理論的に検討した結果、各地域は災害を回避するための投資を過剰に行う傾向があることが示された。すなわち、分権的意思決定の下では、地域間のバックアップ機能の相互供給は軽視され、自発的に災害を回避しようと試みるため、相互依存を高めるような中央政府の政策介入が必要となる。この論文は国際学会で理論的結果を報告したのち、いくつかの数値例の追加とモデルの拡張がなされたが、今後はさらなる計算の精緻化と統計データを用いた実証分析の追加が望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には、2本の理論研究の執筆を行ったが、1本に関しては海外学術誌に刊行済みであり、もう一本に関しても一定の結果が得られ、国際学会での発表等を実施している。また今年度の研究に向けて、災害リスクを適切に回避するインフラ投資メカニズムの開発を進めており、そのモデル構築を一部行うなど、ほとんど当初の計画通り計画が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度実施した研究のうち、各地域の分権的インフラ整備に関する研究をさらに進める。具体的には、昨年得られた基本的な解析結果をもとに、モデルへのいくつかのパラメータの追加と、数値シミュレーションを実施する。また、理論的な分析結果をサポートするようなデータの検索を行い、可能であれば実証分析を実施したのち一本の論文にまとめて投稿する。 また、本計画の中心的な課題である、災害リスクを適切に軽減するための分権的インフラ整備メカニズム開発にも着手する。具体的には、Itoh and Mun (2018)で分析を進めているシャドー・トールに着目し、シャドートールによる自発的投資がどのようにリスク軽減をもたらすのかを中心に理論的分析を進める。 さらに、不確実性の下での意思決定や便益評価について、基礎的な分権のサーベイを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は初年度より数値計算を並行して進める予定だったが、全体の見通しを立てるため解析的な分析を優先して進め、本格的な計算は次年度に持ち越すこととなった。それにともない、コンピュータが必要となった時点で、可能な限り性能の高い最新モデルを安く入手するため、当初計画していた初年度のPC購入を見合わせ、次年度に持ち越すこととした。
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