経済学の教科書的な企業とは異なり、現実の企業は不完全競争下にあること、そして、単一の財を生産することに留まらず、複数の競合的な財を販売したり、あるいは、プラットフォーム企業のように、消費者と出品企業との双方と取引をする(即ち、補完的な財を販売しているものと見なすことの出来る)こと、これらの二つの特徴が常態であるものと考えられる。従って、今後の競争政策の学術的深化を図るためには、これらの特徴を見据え、価格決定の一連のプロセスにおけるメカニズムとその実態が多面的に理解されなければならない。本研究はそのような問題意識のもとで行われている。 令和3年度においては、とりわけ、卸売・小売などの下流企業とメーカーなどの上流企業との間の関係、あるいは、プラットフォーム企業と出店企業との間の関係における交渉的側面に注目した研究を行い、最終的な研究成果は学術論文として出版された。まず、前者のテーマにおいては、ガルブレイスによる拮抗力仮説(1951年)が再検討された。拮抗力仮説とは、下流企業の集中化は、対上流企業に対する交渉力増加を通じた逆価格転嫁効果によって、小売価格が低下する可能性を指摘するものであるが、我々の研究では、下流企業の集中化が結託を誘発する可能性を考慮して、拮抗力仮説の成立が限定的であることを論じるものである。 また、後者のテーマに関しては、プラットフォーム企業が、対出店企業に対して、固定価格で取引を行うレジームを取るのか、あるいは、交渉によって取引価格を決めるレジームを取るのか、その選択の問題を、交渉力との関係で分析した。分析の結果としては、プラットフォームの交渉力が大きい場合は、交渉的レジームが採用されやすく、その結果として、出店企業の増加も促され、社会厚生の観点からは必ずしも反競争的な行為とは言いにくいということが論じられた。
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